「笑わないで、真面目な話よ」

 これ以上怒られる前に話を変えよう。

「どうしてあの時ランプを倒したのですか?」
「人はね、自分に火の粉が飛ばない限り、他人を助けたりしないからよ」

 何にも知らないようでいて、意外なことを知っている。

「……貴女は本当に聖女になりたかったんですね」

 部屋をみれば解る。壁を埋めつくす本たち。珍しいカラクリは星の動きをよむのだという。

「子供の頃の夢よ。叔父さまに憧れただけだわ」

 憧れだけで、難解な古い本を今の言葉に写しかえる仕事なんかできるだろうか。
 伯爵家の不幸さえなければ、この人は残りたった一年で念願の聖女になれたはずだった。
 あんな悪意だらけの薄汚い社交界に出ていく必要もなかったのに。