『あなたも』だって? 『私にも』だって?
身も凍るようなセリフ。何度も嘘で好きだと言ってきたことが、今更ながらに突きつけられる。仕事だと割り切って、お金だと割り切った愛の言葉。こんなオレの唇から告げられる言葉を、聡明なイザベラが信じるわけはなかったのだ。
男爵夫人はかんざしを髪から引き抜き、オレに襲い掛かった。真っ赤な長い髪が乱れて散らばる。
オレは夫人の両腕をかろうじて捕らえる。
「新しい首輪をつけてあげる。とれない首輪があれば良いでしょう?」
夫人のかんざしはギリギリとオレの首を狙って力を込めてくる。喉の皮膚に冷たい鉄の感触。
「ご主人様! 逃げてください!」
オレの声に、イザベラは助けを求めるように周囲を見渡した。
逢瀬の恋人たちの騒めく気配。好奇心丸出しで見ているのに、誰も止めない。かかわらない。きっと痴話ゲンカだろうと覗き見しているのだ。
いつだってそう。誰だってそう。人の不幸は面白がって高みの見物。大したことじゃないと、ふざけてるんだろうと、それくらい、なんて思って助けたりなんかしない。
イザベラは困ったように両手を胸の前で握りしめた。震えている。いつも外に出ない、ひきこもりの彼女にはどうすることもできないのだろう。
でも、このままだと彼女も傷付けられる。