「……なんで、ジャンが泣くのよ……」

 鼻声で非難されて、慌てて頬を拭った。

「私と違って、あなたはたくさんしてきたのでしょう? 初めてじゃないんでしょう?」

 確かにたくさんのキスを知ってる。だけど、自ら望んだキスは初めてだった。ましてや奪ったキスなど初めてで。

「ごめんなさい。犬に嚙みつかれたと思ってください」

 素直に頭を下げる。

「……嘘ではない、のね?」

 イザベラが俯いて問うた。真っ赤な顔だ。

 息を飲む。

「本当です」

 伝わった?

「ならば、許すわ」

 ふいとイザベラは背中を向けた。その汗ばんだ背中まで桃色に色付いていて、思わずもう一度、そう手を伸ばそうとした、その時。