「放しなさい」
「嫌だ」
「無礼よ」
「オレは無礼を許されている」
空しくて悲しくて、ムシャクシャとして、それなのに愛しくて。
大切で大事なのに、だからこそ傷つけてしまいたい。
「痛いわ!」
オレの方がもっと痛い。ずっとずっと痛かった。
「オレが貴女を好きだから、オレは貴女にキスをする」
「っな!」
「好きな女にキスをする」
理由ならある。反論なんか許さない。胸を押し返す手の力。必死なのにたわいもない。
抑え込んで唇を合わせ、むちゃくちゃに蹂躙する。初めてだからなんて知らない、色々なものが混じり合って、鼻の奥が痛くなる。
弱々しくなる抵抗、ぐらつく腰にグッと力を込めて抱きしめる。鼻の奥から漏れる吐息が、イヤらしくオレを煽る。このままどこかへ連れ去ってしまいたい。こんな汚い世界から隠してしまいたい。違う、もっともっと、汚してしまいたい。オレと同じように泥まみれの犬にしてしまえ。
グラグラにおぼつかない足もとの癖に、ギリギリのところで唇に噛みつかれ、あまりの拒絶に心が凍った。緩やかに顔を上げれば、ホロホロと頬を伝う涙が真珠のように美しい。
傷つけても、こんなに美しいままだから。