「いやよ! 帰るわ!」
「オレがそんなに嫌ですか?」
「そんなことは言っていません」
「だったら、なんで」
「私たち恋人同士じゃないわ。こんなところでキスする理由がないでしょう?」
「理由がなければしちゃいけないの?」
イザベラは固い声で答えた。
「キスは好きな人とするものだって、お母さまが言っていたもの」
パチン、頭の中で何かが弾けた。いや、胸の奥だったのかもしれない。
「犬とは無理だと、そうおっしゃる」
「そんなこと言ってないわ」
「そうにしか聞こえない」
オレが好きではないから、キスはできない、そう言っているじゃないか。
オレはこんなに好きだって、貴女が欲しいと言っているのに。
オレはイザベラの細くとがった顎を捕まえた。