「ジャン?」

 首筋に鼻を押し付け、耳元へゆっくりとなぞりあげる。大きく開いた背骨のラインを確認するように掌を這わせる。
 ビクリとイザベラが慄いて、戸惑ったように声を上げる。

「ジャン?」

 それでも、逃げ出さない。押し返さない。そんなだと、そんななら。

「っ!」

 耳たぶに唇を寄せれば、イザベラは大きく背をのけ反らした。
 
「やめなさい、こんなところで」
「こんなところで? こんなところだからです」

 植込みのそこかしこで、恋人たちが唇を合わせている。暗がりで顔が見えないことをいいことに、夜の逢瀬を楽しむのはこの社交界の暗黙の了解だ。