今更じゃないか。何をいまさら。イザベラの中で俺は飼い犬くらいの価値しかない。今までだってそうだった。どの主人もオレをペットとして可愛がった。それでよかったじゃないか、それ以上は迷惑でしかなかったじゃないか。

 それなのに、そのはずなのに、なぜか悲しかった。悲しくて、悲しくて、この場にいたくなくて、グイグイと強引にイザベラを庭へと連れ出す。
 もう嫌だった。

 あれ以上、他人に見せたくなかった。見られたくなかった。

 王宮の明かりが薄くなるほど二人で黙って歩く。
 心細くなるほど細い柱の先に、仮設のランプがポツポツと吊り下げられていた。
 そんな暗がりの庭の中でも、ドレス姿のイザベラは雪のように美しかった。

「すいませんでした……」

 そう頭を下げる。

「いいえ。ありがとう、すっきりしたわ」

 イザベラはそう言って笑った。