「従兄のマルチェロ様です。小さな頃から、たまにこの屋敷に来るのよ。悪い方ではないと思うけど、少し私には耳の痛い話ばかりされるのよ」
「耳の痛い話? 今日みたいなこと?」

 今日の様子ではその逆に見えた。好きな子を虐めたい、そんなガキっぽいイジワルにしか見えなかった。

「ええ。昔から」
「昔何か言われたの?」
「ずっと昔のことを気にする私も大人げないのよ」
「なにを言われたの?」

 イザベラは本から顔を上げてオレを見た。

「話したくないわ」
「ねぇ……教えてよ。あなたを知りたいって言ったでしょう?」

 甘えるようにねだれば、どんな主人だって顔を赤く染めて……いや、やっぱりイザベラは違う。

「しつこいわよ」
「しつこいよ」

 食い下がれば、諦めたように笑う。ランプの明かりがイザベラの顔にチラチラと影を作る。