「百億万年ぶりに下界に降りてこられたのですね。イザベラ」
嫌味な声に振り向けば、そこにはスラリとした美しい青年がいた。社交界で見かけたことがある美丈夫。シニョリーア伯爵家の長男マルチェロだ。
大理石の彫刻の様に白く美しい顔立ち。優し気になびくグレーの髪に、冷たさが際立つサファイヤの瞳。薄い唇は、優しく微笑みを浮かべているが、その視線は貴族と思えないほど感情をあらわにしている。
イザベラは持っていた本をぎゅっと抱きしめ、俯いた。恐れるように一歩下がる。本を抱く指先が小刻みに震えている。
マルチェロは、その青い瞳でイザベラを舐めるように見た。
「あなたも下界におりてくるときは、それなりの格好ができるようだ」
鼻先で笑う様にいう。
「それとも、ソレのせいかな?」
マルチェロはオレを品定めするようにジロジロと不躾に見る。
オレが性奴隷だと知っているマルチェロは嘲笑うように言った。