ジャンという名前は俺の名前じゃない。ここを去ったら捨てる名前だ。奴隷の証の名前だ。だからそんなのいらない、だから。

「イニシャルはIがいいです」
「I?」
「『私』と」
「……そうね、そうなさい」

 イザベラは頭がいい。みなまで問わずに理解してくれる。

 でも本当は違う。自分のものとして残すなら、イザベラ、その名前を刻もうと思った。

「インクはご主人様が選んで」

 セシリオには聞こえない声で言う。

「なに色が一番綺麗に見えるかご存知でしょう?」
「わかったわ」