「今からセシリオと町へ行こうと思うの」
昼過ぎ、イザベラが鏡の前に座って言うと、メイドたちが満面の笑みになった。
「それはようございます」
「だから、すこし……その」
「ええ、ええ、わかりましたわ」
イザベラよりもメイドたちの方がウキウキと沸き立っている。
なぜなら、イザベラは町へ出ないからだ。出ても家の林まで。それ以上は外へ出ない。いつも屋敷に引きこもり、領主の仕事や、子供向けの本を執筆、訳のわからない分解や実験らしきことをしている。
オレがこの屋敷に来てからも、一度も町へ出かけるのを見たことはなかった。
オレとメイドで町歩き用のドレスを選ぶ。
いつもより少し派手でもかまわないだろう。上質だけれど仰々しくない軽やかなワンピースには、いつもは控えめなレースをふんだんに使った。家の林の中で好きだと言っていた菫の花柄のレースにしたのだ。いつかのために誂えておいてよかったっと思う。