「はー……」

 オレは書き切って大きく息を吐いた。

「初めてにしては上手よ」

 イザベラは微笑んだ。こんな微笑みをオレに向けたのは初めてだ。そして、オレの頭に手を伸ばすと、ヨシヨシと撫でまわす。
 オレはポカーンとしてイザベラを見た。

 イザベラはハッとして手を引っ込めた。

「ごめんなさいね、セシリアとの癖で……」

 うつむき顔を赤らめる。

「ううん。嬉しかった……」

 オレは格好つけるのも忘れ、思わず呟いた。

「嘘」
「嘘じゃない! オレ、生まれてからこんなことされたことないから」

 褒められたことがないわけじゃない。見た目はいつだって賞賛されたし、色恋ごとのテクニックでは喜ばれている。

 だけど、こんな純粋に、母が子どもにするように、頭を撫でられたことはなかった。不意打ちで心が震えた。もうとっくに殺してしまった、胸の奥の子どもが目覚めてしまった。

 奴隷としての顔を忘れてイザベラを見る。
 イザベラは少し悲しそうに微笑んだ。