「別にそう思うならそれでいいわ」
オレは拍子抜けしてしまう。
「で、なにするの?」
聞けば、イザベラは真面目な顔をオレに向けた。
「今まで見に行った舞台のこと、教えてほしいの」
イザベラは引き籠もり令嬢だ。自分で観劇に行くことはない。オレは、以前のご主人様のペットとして、数々の舞台を見に行ったことがある。
「ふーん? いいけど。どの演目?」
「ジャンが面白かったものから話してちょうだい」
まるで事務報告でも聞くように尋ねる。
色気もへったくれもない空気に、オレはハーッとため息を吐いた。
「ここへ来て」
イザベラは自分が腰掛ける三人掛けのソファーをポンと叩いた。
オレはその意外性に、思わず満面の笑みになる。つれない態度をとったところで、結局はオレのことを気に入っているに違いない。
「はい!」
オレは尻尾を振る犬のように嬉々としてイザベラの隣に座った。
イザベラはビックリしたようにオレを見る。
「どうしたの。やけに嬉しそうね?」
「ご主人様の隣にいられることが嬉しいんです!」
オレが答えると、イザベラは苦笑いをした。
「……嘘でも、少し嬉しいわ」
「嘘じゃ」
「さぁ、話して」
否定する俺の声をイザベラが遮る。オレは渋々と演劇の説明を始めた。