「いや、いい」

 気にするなとばかりに、レオは私の頭にポンと手を置いた。

「先のことが分かれば多少なり対策は取れる。全く無駄ではないんだ、リンネ」

「……本当?」

「ああ。だからその情けない顔するのはやめろ」

「情けないって何よ……」

 なぜ私が慰められているのだ。おかしくない? だいたい、レオはなんでそんなすました顔をしているのよ。ここはもっと嘆いたりしてもいいところなのに!

 苛立ちのあまり、私は思い切りレオの頬をつまむ。

「いててて、なにするんだ!」

 いつもの怒り顔に、私はようやくホッとできた。

「レオが泣かないからよ」

 ムッとして見上げたら、目尻を指で拭われた。目の周りが熱いとは思っていたけど涙まで出ていたとは思わなかった。

 レオはふっと微かに笑うと、私に額を押し付ける。額から、彼の熱が伝わる。この体がいつか冷たくなるかもと思うと、どうしようもない焦燥にかられる。

「……おまえが代わりに泣くから、俺はいいんだ」

「それじゃあ、私はよくない」

 声を出すたびに、ぶわっと涙が湧き上がる。嫌だ。涙なんて見せたくないよ。
 プイッとそっぽを向いて、自分の服の袖で涙を拭ってごまかした。モヤモヤするような落ち着かないような気持ちを言葉にすることができなくて、私は黙りこくることしかできなかった。