私はこっそりと彼の手の甲をつねり、「いやだわ。人前でおやめくださいな」と優雅に笑って見せた。

 そのやり取りは、親密さを誇示することになってしまったようで、さらにどよめきが増す。

 ああー、知らないよ。 レオはつねられた手をじっと見つめると、なぜか頬を染め、赤くなった手の甲に自らの唇をあてる。妙に色気のある表情に、私だけじゃなく、会場中の令嬢たちが目を奪われる。

「よそ見しているからだ」

 口端を曲げて笑うレオに、私がドキリとしたのと同時に、令嬢たちはきゃああと歓声を上げた。

 ……格好いいのは私も同意するけど、だからと言って騒ぐのはやめて欲しい。うるさいってば。

 このやり取りにより、レオと私は、仲睦まじい婚約関係としてしっかり人に周知され、私達の周りには、お祝いを言いに人がひっきりなしに集まる羽目になってしまった。
 その中には令嬢たちも含まれたため、早々にレオの調子が悪くなってしまう。

 ……仕方ないな。

「申し訳ありませんが」

 私は顔に扇を当てたまま、立ち上がる。

「人の多さに疲れました。キンキン声に頭痛がしますの」

「まあっ」

 私のセリフに、令嬢たちが顔を赤くして睨んでくる。

「レオ様、ご挨拶はこのあたりでよろしいんじゃありません?」

「あ、ああ」

 吐き気で言葉少なになっているレオの腕を引っ張り、その場を抜け出す。
 背中に、「どうしてレオ様はあんな女性を選んだのかしら」なんて声も聞こえてきて、ため息が止まらない。

 ええ、そうですね。もうちょっといい言い方があっただろうとは私も思います。

 だけど、中座するいい言い訳なんて私には思いつかないもん。令嬢のわがままってことにしておけば、一番角が立たないじゃん。