先ほどまで現実のように感じていた日本のものが、どうしても記憶の前面にあるけれど、金髪の記憶の方が現実に近い。しかしこちらの記憶は、もうひとつの記憶に比べてはるかに少ない。そう、三歳くらいの子供のころから、今の年齢である八歳までの五年分くらいしかない。

「リンネ……リンネ・エバンズ」

 金髪の少女の名前を口にする。もう一方の記憶と同じ読みの名前なのは偶然なんだろうか。

 名前を声にしたことで、体と心がちょっと定着したような気がする。さっきまでは体を動かすのにも、なんとなく気持ちを込めなきゃいけない気がしたけれど、自分の思うように動くようになってきた。

「それにしても、ここはどこだろう」

 見た限り庭園のようだが、すぐ傍には石壁がある。見上げればそれがそびえたつお城の一部であることが分かる。赤、紫、黄色と色とりどりの花が咲き乱れる庭園には遊歩道があり、私はその中央に倒れていた。

 こんななにもないところで、私、まさか転んだの? どんくさ……。

 今更ながらに恥ずかしくなってきた。
 とにかく、今の自分の姿が、記憶の姿の同じなのか確かめたい。

 あたりを見回してみたが、あいにく、鏡も水辺もなく、窓は背が届かないという状況で、自分の姿は確認できない。私は鏡を捜すため、少し周囲を走ってみることにした。

 十メートルくらい移動してみて、転ばずに走れていることにちょっと驚く。凛音の方の記憶では、履いたことのあるスカートの中で、最も長い丈は制服だ。つまりは膝ぐらいの長さしか扱ったのことが無いはずなのに、今、足にまとわりつくようなドレスを上手に捌いている。

 体が、覚えているというか……そんな感じ?

 まあいい。機動力はないよりあったほうがいいだろう。