時は過ぎ、私は十六歳になった。レオに初めて会ってから、八年目の春だ。

 半分はお世辞だと思うけれど、私は美しい令嬢とほめそやされるくらいにはなった。伯爵家のメイドたちの手入れがいいから、ウェーブを描く金髪は、艶も腰もある。心配していた胸もちゃんと育って、走るのにはむしろ邪魔なくらいだ。日ごろ鍛えているせいで無駄な脂肪もない。私としては、程よく筋肉のついたこの足を褒めて欲しいところだが、基本がドレスの貴族令嬢としては見せる場面が無い。残念だ。
 釣り目のせいで、気が強そうに見えるのか、相変わらず女友達はできていないのが悲しい。

 腕の文字についてはとくに新しいことは判明していない。……というか、私には知らされていなかった。クロードもレオも、私がその話をすると何気なくそらしてしまうので、隠されていることはあるのかもしれない。けれど、言いたくないことは聞かないという私の主義は変わっていないので、追及はしていない。

 レオはともかく、クロードは案外しゃべりたがりな気がするから、本当に危険なときはクロードが教えてくれるんじゃないかと勝手に思ってもいた。

 そんなある日、私は帰り際に陛下に呼び出された。

 レオやクロードとは気やすくしている私だけれど、国王陛下ともなればさすがに緊張するのだ。従者とかに伝言してくれたらそれで十分なのにと思ってしまう。

「なんとかレオを学園へ連れて行ってくれないか」

「またそのお話ですか」

 もう何度目かになるお願いに、困ってしまう。

 レオはすでに十七歳。陛下の執務手伝いもしていて、男性の中にだけいる分には何の問題もないそうだ。

 今やクロードの背も抜いたレオは、もともと端整な顔立ちということもあり、前世でいうところのアイドルのようなキラキラした王子様だ。少し丸みを帯びた輪郭に、すっと通った鼻。意志の強そうなくっきり二重の目、瞳は紫水晶のように輝いている。体は私と共に鍛えているから、理想の細マッチョ体型。貴族の令嬢たちが放っては置かない容姿なのだが、相変わらず私と女王様以外の女性には触れられないらしい。学園にも戻りたくないと頑なに言っている。
 実際、通ったところで卒業まではあと一年しかない。私は正直、今さらという気がしている。

「恐れながら陛下。今から通っても一年しかありませんし、レオ様に無理をさせる必要はないのでは」