針で刺すような痛みを感じて、俺は目を開けた。

 あたりはまだ暗闇だ。腕に時折訪れる痛みは、最近では場所を肩のあたりに移している。
 自分で体を抱きしめるようにして、痛みが治まるのをじっと待つ。毎晩とは言わないが、数日に一度のペースで痛むため、すでに慣れっこになっている。痛みをやり過ごす間は、リンネのことを考えるのが常だ。

 俺が初めてリンネに会ってから、五年が経過していた。

 いきなり人の服を脱がせたり、走ろうと言ってみたり、人の度肝を抜くことにかけては他者の追従を許さないリンネだが、十三歳となった今もそれは健在だ。

 相変わらず走ることには妙なこだわりを持っていて、時計職人に時間を細かく図るための時計を作らせ、独自に測定をしている。リンネいわく、まだまだ精度が足りないようだが。
 先日も、医者でもないくせに、インナーマッスルの強化がどうとか、ヒラメ筋がどうとか、どこでつけたのかよくわからない知識を得意げに披露され、俺は絶句する羽目になった。

 ……ああ本当に、リンネといるのは飽きない。

 振り回されてばかりだというのに、彼女のことを考えていると自然に笑みが浮かぶ。

「……落ち着いてきたな」

 痛みの治まった腕を離し、ランプに明かりをともした。そして服を脱ぎ、鏡にあらわになった上半身を映す。

 腕に浮かび上がる刺青の文字。その文字は最初に刻まれたときよりも、赤黒くなっている。最初は薄くなっていくのかと思ったが、赤みを増していくだけで消える気配はなかった。そして今日は、さらに違った変化があった。

「……線が伸びてる?」

 文字の先が、今までよりも伸びている。まるで血管をなぞるように五センチほど肩の方に向かって伸びている。

「なんだ、これは」

 今までにない変化に、俺は焦った。と同時に、古代文字という言葉が脳裏を駆け巡った。