「おまえが好きで好きで仕方ないんだと、みなに教えておかなければ」

 いや、それはやりすぎだ。王太子たるもの、毅然としていればいいと思う。女にうつつを抜かしているなどと言われたらどうするのだ。
 諫めようとしたけれど、急に音楽がアップテンポになって、それどころじゃなくなった。

「え? 早くない?」

 周りで踊っていた人たちが、ついていけなくなって動きを止める。
 レオは楽団の方を向き、くすりと笑って見せた。

「ローレン嬢の計らいのようだな。ついて来れるだろ。リンネ」

 負けん気の強い私は、当然頷く。

「そりゃ。もちろん!」

 クルクルと回りながら、私は楽しくなってきていた。一緒に走っているときみたいだ。徐々に周りから音が消え、私とレオの息遣いだけが響く。触れた手の先から、ワクワクした気分が生まれてくるみたい。

 夢中になって踊った後には、割れんばかりの拍手が待っていた。
 どうやら、このテンポの速い踊りについていけたのは私とレオだけだったようだ。

「みんな、ありがとう。俺はこれからも、彼女と共にこの国を守っていくことを誓う」

 極めつけに、みんなの前でプロポーズまがいのことをされた。勘弁してほしい。
 ツンツン王子だったくせに、このかわりような何なのだ。

 なんだかわけがわからないけれど、この世界は、『情念のサクリファイス』の結末とは違う方向に行ってしまったらしい。
 だけど、みんなが笑っているから、これはこれで、いい結末だと思うことにしよう。



【Fin.】