翌日、侍女のエリーとともに馬車に乗り込み、学園へと登校する。
 門を入ってすぐのところで馬車から下ろされ、エリーから鞄を渡される。学園内では侍女が側につくことはないので、エリーとはここでお別れだ。

「ではリンネお嬢様。昼にお迎えに参ります」

 毎日この送り迎えをしているのかと思うと、ご苦労様ですと頭を下げたくなるが、令嬢はそれをしてはならないらしい。乗り込むときに支えてくれたから『ありがとう』と言ったら、それだけで驚かれた。こういうときにさも当然という態度をとるのは、今の私にはなかなか難しい。

 門では、同じように多くの学生が乗ってきた馬車から下り、校舎へと吸い込まれるように消えていく。

 私があたりを見回しながら歩いていると、しずしずと近寄ってくる令嬢がいた。

「ごきげんよう、リンネ様、昨日はどうなさったの? いつの間にかいなくなっているんですもの」

「あー」

 じっと顔を見て、記憶を探る。ストレートの深緑の髪、薄い金色の瞳のこの令嬢はたしか……ポーリーナ・アドキンズ伯爵令嬢だ。昨日の王家のお茶会でご一緒していたはずだ。

「ポーリーナ様……。昨日は途中で具合が悪くなってしまいまして。なにも言わずに帰宅してしまって申しわけありません」

「あら、いいんですのよ。リンネ様はそんなにお体が強くありませんものね」

 この肌の白さから証明されるように、前のリンネはどちらかというとインドア派だったらしい。運動の授業のときには、よく仮病を使って日陰で休憩していたりしたようだ。なかなかに、図々しい性格である。

 今の私はお日様の下で走り回りたい方なのだけど、突然行動を変えたらきっとみんな驚くだろう。しばらくの間は我慢だ。