予想以上に魔法陣の完成時期が早い。私も驚いたが、クロードも渋い顔をしている。
 クロードは頷くと、集まったメンバー全員の顔を見まわしてから、説明した。

「僕の考えた案はこうです。今レオの胸に刻まれている魔法陣が完成する前に、この魔法陣に別の効果を書き換えるのです。具体的には、時戻りの呪文をこの魔法陣全体に対してかけます。僕は、魔法陣完成と同時に、時戻りも発動して、描かれた魔法陣が消えていくのではないかと予想しています」

 それは、私が前に王妃様に言ったセリフから思いついた案らしい。そんなこと言ったかなぁってくらい昔のことだし、実際あの時私は何も考えていなかったというのに、王妃様は何年もそのことを忘れていなかったし、聞いたクロードはこんなことまでひらめくんだから、凄い。何でも言ってみるものだなぁ……と遠い目になってしまう。

「だが、書き手が違えばうまく融合しないのではないか」

 クロードの研究仲間のひとりが言う。

「それに関しては賭けになります。だが術者……ジェナはもう生きてはいませんし、この国には魔術を扱える人間はほとんどいない。であれば、誰がやっても一緒かと」

「あ、待って。ローレンは?」

 レオを救うのは、ローレンのはずだ。ローレンならリトルウィックの巫女姫の血を引いているのだから、魔力もある。

「ね。お願い。ローレン」

 私はそう言ってローレンを手招きしたけれど、彼女は一歩も動かず、首を横に振った。

「無理よ。レオ様は私に触られると吐いてしまうでしょう? 動かれたら呪文なんて書けない。針で刺すのよ? じっとしていてもらわなきゃ無理」

 血の気が引いたような気がした。呪文を書くと言っても、ジェナがやったように、刺青を描くように針で刺さなければならないのか。そんなの、普通に描くよりずっと難易度が高いじゃないか。