小首をかしげながら、私は身支度を整え、応接室に向かう。お母様が必死にクロードを持ち上げる声が聞こえてきた。

「もう本当にクロード様は優秀でいらっしゃるわぁ」

「いえいえそんな」

 うん。お母様、落ち着いて。クロードが引いているような声を出してるよ。

「お待たせいたしました」

「まあ、リンネ、遅いわよ」

「構いませんよ、夫人。約束もなく押し掛けたこちらが悪いのですから。それに、女性は男を待たすものです。その後で、待たされた以上の喜びをくださるのですから、ね」

 ぱちりとウィンクされて、お母様のほうがノックアウトされそうだ。

「クロード。急にどうしたの?」

「話があるんだ。あまり人には聞かれたくない話なんだけど。君とふたりきりというのはまずいから、庭を散策させてもらっても? そこであれば、エバンズ夫人も窓から様子を見ることができるでしょう?」

 そつのないクロードの提案に、反対できるような人間はうちにはいない。
 私は了承し、ふたりでうちの庭を散策した。

「綺麗に整えられているね」

「庭師の努力の成果よ。私、花のことはよくわからない。名前も」

「リンネは素直だなぁ」

 くすくすと笑う。話があるという割に、クロードは余裕がある。歩きながら、しばらくは花の名前と栽培方法を教えてくれた。一体なにしにきたのだと思った頃に、ようやく本題を切り出してきた。