うれしいという気持ちと同時に、とんでもない罪悪感に襲われ、咄嗟にその手を押さえる。自分の顔が青くなっているのが見なくても分かった。

「……リンネ?」

「ごめん。レオ。……それは、受け取れない」

 手が震えそうになるのを、なんとか堪える。そしてなるべく平坦な声で、彼に告げる。

「婚約を解消してほしいの」

 レオは信じられないものを見るように私を見つめ、小さく「なぜ?」とつぶやいた。

「ほら、もう、レオもそろそろ学園に慣れたでしょう? 婚約者がいなくても大丈夫かなぁって」

 笑顔だ、リンネ。絶対に泣いちゃダメ。あくまで軽く、さらりと言ってのけろ。

 レオは睨むように私を見て、ネックレスをギュッと握りしめる。

「婚約者がいなくなれば、令嬢が群がってくることくらい分かるだろう? リンネは俺に、それを甘んじて受けろというのか?」

「そういうわけじゃないけど、ほら、言ったじゃないレオ。私に好きな人ができたら、婚約解消してくれるって」

「……っ」

 空気が尖ったのが感じられた。どうしよう。とても苦しい。レオの顔が見るのが怖くて、顔が上げられない。

「相手は誰だ」

 声が低い。口調はそこまででもないけど、レオの怒りに似た感情が突き刺さってくる。

「それは……その」

「……クロードか?」

 彼は勝手に、結論付けてしまったようだ。ネックレスをつぶしてしまうのではないかと思うほど固く握られた拳が、私の視界に入る。

「違うよ、その」

 すべてを伝えることはできない。……でも、本当に伝えてはいけないのだろうか。どうして? 世界の理が崩れるから?

 だけど、私はおそらく、元の物語とは違う動きをしているのだと思う。だからこそ、ローレンがあんな風に怒ったんだ。従っていてもうまくいかないなら、もういっそ激しく脱線してしまえばいい。