私はずっと、それが正しい姿だと思っていた。だから疑問にも思っていなかったし、そうあるべきだとさえ、思っていたのだ。

「リンネはそれでいいの?」

 だから、クロードにそう問われて、凄く不思議な気分になった。

「だって、そう決まってるんじゃないの?」

「リンネ……」

 クロードはハッと息を飲んだあと、ちらりとレオを見て、それから私に優しい笑顔で笑いかけた。

「……だったら、僕にもまだチャンスがあるということだね」

「チャンスって?」

 クロードはにっこりとほほ笑むと、私の右手をすっと持ち上げる。

「レオともし婚約破棄することになっても、心配しないで。僕はずっと、君を待ってる」

「へ……?」

 そのまま、クロードは指の付け根にキスをした。

 は? あれ? なんだこれ。

 訳が分からずぼうっとそれを見ていたら、いつの間にか傍に来ていたレオが、私の手をぐいと引っ張った。

「なにをしているんだ。クロード!」

「なにって、久しぶりにリンネと話せたからね。ご挨拶だよ」

「俺の婚約者だぞ」

 レオが怒っているのを見て、ようやく私は、婚約者のいる女が気軽にされてもいいことではないのかと気づいた。

「レオ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけ」

「こっちだって驚いた。おまえもぼーっとしてるなよ」

「だって、クロードだもん」

 何も心配することはないでしょう? と続ければ、レオは深いため息をついた。

「レオ?」

「なんでもない。そうだな。クロードなら仕方ないのか」

 つぶやきの意味が分からなかった。そしてふと、レオの顔色が悪いのに気づく。

「レオ。疲れてる?」

「……悪いが、やはりリンネの以外の女性は苦手だ」

 そう言うと、「気を付けて帰れ」といい、レオは背中を向けてしまった。
 クロードは苦笑したまま、「リンネはもうお帰り」という。

 私は何かいけないことをしてしまったような気もしつつ、どうすることもできず、ただその言葉に従った。

「リンネ、お話終わった? 帰ろう」

 ローレンだけがいつものように明るくて、私は失礼にも、ローレンが場違いのように思えてしまったのだ。