学園に戻るための交換条件だ。リンネはおそらく、解消するのを前提で、この婚約を受けている。
 クロードはじっと俺を見つめていた。諦めたような顔が気に入らないのか、不機嫌そうに眉を寄せている。

「……レオは考えが独りよがりすぎるよ。君に死ぬ覚悟ができていても、僕やリンネはそうじゃない。君が死んだらリンネが泣くだろ? 好きな女を泣かせてもいいのかい」

「そのときはクロードがいるじゃないか。お前だってずっと、リンネのことを……」

 クロードの体がびくりと跳ねる。兄のように恋人のように、クロードの瞳がリンネを追っていたことくらい、気づいている。そのたびに俺は、嫉妬まがいの感情に胸が焼けそうだった。

 だがクロードはゆっくり首を横に振った。

「あいにくだけどね、僕はもうだいぶ前に、気持ちの整理をつけている。リンネは君にこそ必要な人だ。相手のいる女性に横恋慕するほどマゾじゃないよ」

「俺には、な。だがリンネにとってはそうじゃない」

 そう。分かっているのだ。リンネは俺を、幼馴染以上には見ていない。いつだって、大人なクロードの方に心を許している。

「……リンネの気持ちを思えば、俺は婚約などするべきじゃなかったのかもしれない」

 それでも、そう遠くない未来に死ぬのかもしれないと思えば、せめてその期間だけでも、リンネを独占したかった。