~【 】は実際は韓国語で話しています。~
コウキに握られた手。コウキの怒ったような顔。
「・・・無理してる?」
奈津はかすれた声で聞き返す。
「わたしが・・・?」
タクシーの中の2人は奈津とヒロの様子から目を離せない。そして、軽くパニックになる。
【ナツ何かした?】
【ナツさんが何か怒らせるようなことを言ったとか?あ~もう!日本語だから分かんない!】
車内で慌てふためく2人・・・。
まなみも横で起きていることを、まだ涙の乾かない目で見る。悠介は少し離れた場所で、静かに見守る。・・・自分にはいつも通りの強い奈津だった。でも、タムラコウキには、奈津の今の明るさは強がりだと、無理して笑ってるんだと・・・そう見えていた・・・。
その時、運転席から声が聞こえた。
「お客さん、大阪方面の最終新幹線乗るんでしょ。駅まで混むんで、もう車出しますよ。」
バックミラー越しに高校生たちのやりとりを見ていた運転手が、少しイライラした調子で声をかけた。そして、その声が終わるか終わらないうちに、タクシーは動き始めた。
【あ゛~】
運転手を見て、思わず情けない声を出す2人。しかし、そんな声など無視するかのように、無情にもタクシーは発車する。その時・・・。
「離して!」
奈津の声が聞こえた。慌てて、ジュンとヨンミンがそちらを見ると、奈津がヒロの握っている手を振りほどこうとしているところだった。
「無理なんかしてない!そんなこと言われたくない!」
【2人ケンカしてます!!】
【嘘だろ!今?】
こんな最後の最後に、まさかのナツとヒロの不穏な空気・・・。オレたち帰らないといけないっていうのに、もう、気になって気になってしょうがないじゃないか!!
あ~、でも、タクシーは止まってくれない。クソ~・・・。だけど、とにもかくにも、さよならしなくちゃ。それに、みんな、みんな・・・ありがとう。
「アンニョ~ン!!」
2人は大きな声で挨拶した。そして、タクシーの中から手を振った。2人を乗せたタクシーが車道へと出て行く。
【ヒロ!ナツ!】
ジュンは大声で名前を呼んだ。タクシーが出発したというのに、お互い譲らず、にらみ合っていた奈津とコウキは、名前を呼ばれて我に返ると、そちらを向いた。見ると、ジュンが指で四角いフレームを形どっていた。写真を撮ってはいけないので、ジュンは代わりに、その指をカメラに見立てた。
しばし休戦・・・。奈津はジュンとヨンミンに手を振る。コウキは軽く右手をあげる。
ジュンの指の間で、ヒロとナツがブルーモーメントの空気に包まれていた・・・。不思議と・・・離れていくだろう2人への、さっきまでのやりきれない悲しい思いが、瞬間消える。
【あの2人・・・。】
フワッと優しい気持になる。ジュンは下を向いて目をつぶり、そっと2人一緒の姿を記憶に刻んだ。
奈津の隣でまなみが大声を張り上げる。そして、
「ヨンミ~ン!ジュ~ン!ありがとう~!サランヘヨ~!(愛してる~》」
と大きく両手を振った・・・。
タクシーが道路の先、小さくなって黄昏の中に消えていく。
夏の嵐のような2人は帰って行った・・・。
「まなみ・・・、一緒に帰ろう。」
残された4人を気まずさが包み始めた頃、尖った口調で奈津が言った。ヨンミンとジュンの余韻に浸っていたまなみは、コウキを差し置いての奈津からの申し出に、
「えっと、えっと。」
とコウキの顔を見ながら戸惑った。
「ぼくが送る。」
そう言って、コウキはもう一度、奈津の手をとろうとした。すると奈津は、コウキの手が自分の手に触れるか触れないかのところで、それを払いのけた。
「そっちこそ!無理しなくったっていい!」
そんな言葉と共に・・・。思わず、横にいるまなみの方がビクッとするくらい、強い言い方。暗くなり、奈津の顔ははっきりとは見えなくなっているが、口調と比例してきっとキツい表情に違いない。
手を払いのけられたコウキは、動じず、もう一度、奈津の手に触れようとした。
「一緒に帰ろう。」
優しい声だった。そう・・・そっと奈津に寄り添うような、包み込むような・・・そんな声。それなのに・・・。
パシンッ!
奈津がそんなコウキの手をまたもや払いのけた。そして、一気にしゃべる。
「コウキなら・・・、コウキなら、『無理するな。』って言ってもいい!わたしの手、握ってもいい!何してもいい!でも、でも・・・ヒロには・・・ヒロには言われたくない!それに・・」
奈津は大きく息を吸う・・・
「触られたくもない!!」
暗くなったグランドに奈津の声が響く・・・。コウキはゆっくり振り払われた自分の手を見つめた。
『キッツ。あいつ何言ってんの・・・?』自分に言われた訳でもないのに、悠介の胸はズキンと痛む。そして、奈津の言動にヒヤヒヤした。タムラコウキといる時の奈津は、いつも周りをヒヤヒヤさせる。そう、あのグランドでタムラコウキの胸ぐらを掴んだ時だって・・・。しっかり者で優等生の奈津は、冷静沈着で危なっかしいところなんて微塵もなかったはずなのに・・・。
沈黙がしばらく4人を覆う。
「ごめん。」
抑揚のない声が暗がりで静かに響く。コウキだった・・・。そして、コウキはそれだけ言うと、足早に歩き始めた。奈津に背を向けて。それっきり、奈津を振り返ろうともしないで。あんなに見つめていた奈津の大好きな背中は、奈津を置いて・・・どんどん奈津から離れていった・・・。
コウキに握られた手。コウキの怒ったような顔。
「・・・無理してる?」
奈津はかすれた声で聞き返す。
「わたしが・・・?」
タクシーの中の2人は奈津とヒロの様子から目を離せない。そして、軽くパニックになる。
【ナツ何かした?】
【ナツさんが何か怒らせるようなことを言ったとか?あ~もう!日本語だから分かんない!】
車内で慌てふためく2人・・・。
まなみも横で起きていることを、まだ涙の乾かない目で見る。悠介は少し離れた場所で、静かに見守る。・・・自分にはいつも通りの強い奈津だった。でも、タムラコウキには、奈津の今の明るさは強がりだと、無理して笑ってるんだと・・・そう見えていた・・・。
その時、運転席から声が聞こえた。
「お客さん、大阪方面の最終新幹線乗るんでしょ。駅まで混むんで、もう車出しますよ。」
バックミラー越しに高校生たちのやりとりを見ていた運転手が、少しイライラした調子で声をかけた。そして、その声が終わるか終わらないうちに、タクシーは動き始めた。
【あ゛~】
運転手を見て、思わず情けない声を出す2人。しかし、そんな声など無視するかのように、無情にもタクシーは発車する。その時・・・。
「離して!」
奈津の声が聞こえた。慌てて、ジュンとヨンミンがそちらを見ると、奈津がヒロの握っている手を振りほどこうとしているところだった。
「無理なんかしてない!そんなこと言われたくない!」
【2人ケンカしてます!!】
【嘘だろ!今?】
こんな最後の最後に、まさかのナツとヒロの不穏な空気・・・。オレたち帰らないといけないっていうのに、もう、気になって気になってしょうがないじゃないか!!
あ~、でも、タクシーは止まってくれない。クソ~・・・。だけど、とにもかくにも、さよならしなくちゃ。それに、みんな、みんな・・・ありがとう。
「アンニョ~ン!!」
2人は大きな声で挨拶した。そして、タクシーの中から手を振った。2人を乗せたタクシーが車道へと出て行く。
【ヒロ!ナツ!】
ジュンは大声で名前を呼んだ。タクシーが出発したというのに、お互い譲らず、にらみ合っていた奈津とコウキは、名前を呼ばれて我に返ると、そちらを向いた。見ると、ジュンが指で四角いフレームを形どっていた。写真を撮ってはいけないので、ジュンは代わりに、その指をカメラに見立てた。
しばし休戦・・・。奈津はジュンとヨンミンに手を振る。コウキは軽く右手をあげる。
ジュンの指の間で、ヒロとナツがブルーモーメントの空気に包まれていた・・・。不思議と・・・離れていくだろう2人への、さっきまでのやりきれない悲しい思いが、瞬間消える。
【あの2人・・・。】
フワッと優しい気持になる。ジュンは下を向いて目をつぶり、そっと2人一緒の姿を記憶に刻んだ。
奈津の隣でまなみが大声を張り上げる。そして、
「ヨンミ~ン!ジュ~ン!ありがとう~!サランヘヨ~!(愛してる~》」
と大きく両手を振った・・・。
タクシーが道路の先、小さくなって黄昏の中に消えていく。
夏の嵐のような2人は帰って行った・・・。
「まなみ・・・、一緒に帰ろう。」
残された4人を気まずさが包み始めた頃、尖った口調で奈津が言った。ヨンミンとジュンの余韻に浸っていたまなみは、コウキを差し置いての奈津からの申し出に、
「えっと、えっと。」
とコウキの顔を見ながら戸惑った。
「ぼくが送る。」
そう言って、コウキはもう一度、奈津の手をとろうとした。すると奈津は、コウキの手が自分の手に触れるか触れないかのところで、それを払いのけた。
「そっちこそ!無理しなくったっていい!」
そんな言葉と共に・・・。思わず、横にいるまなみの方がビクッとするくらい、強い言い方。暗くなり、奈津の顔ははっきりとは見えなくなっているが、口調と比例してきっとキツい表情に違いない。
手を払いのけられたコウキは、動じず、もう一度、奈津の手に触れようとした。
「一緒に帰ろう。」
優しい声だった。そう・・・そっと奈津に寄り添うような、包み込むような・・・そんな声。それなのに・・・。
パシンッ!
奈津がそんなコウキの手をまたもや払いのけた。そして、一気にしゃべる。
「コウキなら・・・、コウキなら、『無理するな。』って言ってもいい!わたしの手、握ってもいい!何してもいい!でも、でも・・・ヒロには・・・ヒロには言われたくない!それに・・」
奈津は大きく息を吸う・・・
「触られたくもない!!」
暗くなったグランドに奈津の声が響く・・・。コウキはゆっくり振り払われた自分の手を見つめた。
『キッツ。あいつ何言ってんの・・・?』自分に言われた訳でもないのに、悠介の胸はズキンと痛む。そして、奈津の言動にヒヤヒヤした。タムラコウキといる時の奈津は、いつも周りをヒヤヒヤさせる。そう、あのグランドでタムラコウキの胸ぐらを掴んだ時だって・・・。しっかり者で優等生の奈津は、冷静沈着で危なっかしいところなんて微塵もなかったはずなのに・・・。
沈黙がしばらく4人を覆う。
「ごめん。」
抑揚のない声が暗がりで静かに響く。コウキだった・・・。そして、コウキはそれだけ言うと、足早に歩き始めた。奈津に背を向けて。それっきり、奈津を振り返ろうともしないで。あんなに見つめていた奈津の大好きな背中は、奈津を置いて・・・どんどん奈津から離れていった・・・。