「はい、はい、はい。あ、コウキかね。なんて?帰れんなった?まあ、まあ。」
固定電話の受話器をとると、それに向かって、大きな声でタムラのばあちゃんは話した。受話器の向こう側では、少年がベッドに横になりスマホを片手にやっぱり大きな声で話していた。
「高校?はあ、ばあちゃんは高校のことはよう分からん。」
少年が何かを伝えようとするが、もう歳が90歳に近いのと、耳が少し遠いのとで、なかなか話が思うように伝わらない。それでも、少年は根気強く話を続ける。
「ばあちゃん、ぼく、そっちの高校やめ・・・」
少年がゆっくり言葉を句切り、大きな声でそう言いかけた時、
「高校ねえ・・・、高校・・・高校。あ~そうそう、そう言えば、この前、高校の女の子が来ちゃったよ。」
ばあちゃんが思いもかけないことを言った。少年はガバッと起き上がる。
「女の子?」
少年は両手でスマホを握ると慌てて聞き返す。ばあちゃんは相変わらずのんびりと答える。
「コウキくんいますか?言うて。」
ばあちゃんの言葉が終わるまで少年は待ちきれない。
「髪!髪は短かった?」
耳の遠いばあちゃんも思わず受話器を遠ざけてしまうくらい大きな声が出る。少年の大声が終わったのが分かると、ばあちゃんは再び受話器に耳をつけた。
「髪かね?帽子かぶっとったから、よう分からんじゃったけど・・・。」
やはり少年は、ばあちゃんの返事を最後まで聞けない。そして、またもや大きな声になる。
「名前は?名前言ってなかった?ナツって。ナツって言ってなかった?」
「名前ねえ・・・。言いよったと思うけど、忘れてしもうたねえ。」
少年とは真反対の調子で、たんたんとなんの悪気もなしに話すばあちゃんに、仕方ないと分かっていても、少年は苛立ちをぶつけてしまう・・・。
「ばあちゃん!!」
スマホを握りしめた手の甲におでこを当てる。そして、その甲で2.3度おでこを打った・・・。何で・・・?届きそうで届かない・・・。触れそうで触れられない・・・。そこまで来ているような気がするのに・・・。
「大切な子かね?」
暗がりの静かな部屋に、突然、スマホからばあちゃんののんびりした声がボソッと響く。少年の目の前に、鼻を真っ赤にさせて泣いている少女が見えた気がした・・・。少年はスマホを耳に当て直す。少年の声が返ってこないので、もう一度ばあちゃんが繰り返す。
「コウキの大切な子かね?」
思考を通さない、少年の溢れる想いが自然に口をついて出てくる。
「うん・・・。すごく大切・・・。」
言った途端、鼻の奥がツンとした・・・。
スマホと受話器とを挟んで、しばらく沈黙が流れる。
「そうかね。・・・目が綺麗じゃったね。」
ばあちゃんは少女の印象をそう語った・・・。その時、少年のいる部屋の扉が開き、電気がついた。
「あ、ばあちゃん、また、かける。母さんからも電話があると思う。・・・うん。またね。」
少年は分からないように鼻をすすると、スマホを切った。そして、それを握ったままベッドに仰向けに身を投げ出した。
電話が切れ、ばあちゃんはしばらく受話器を眺めていた。そして、
「そう、そう、また、忘れたらいけん。」
そうつぶやきながら受話器を置くと、電話の横に大きなクリップで束ねてある、裏の白い広告を一枚取り出し、マジックで大きく字を書いた。
『ナツ タイセツ』
そして、それを電話の上の壁に二つの画びょうでゆっくり止めた。
「ヒロ!ご飯できたぞ!何?電話?」
メイクを落として、ラフなホームウェアに着替えたシャインが戸口に立っていた。
「うん。」
天井を見たままヒロが答える。
「なんか大きな声出してたけど?」
シャインはできるだけサラッと訊いた。ヒロはスマホをサイドテーブルに置くと、勢いをつけてベッドから跳ね起きた。明るいシルバーに染められた髪がフワリとなびく。ヒロは何ごともなかったようにいつもの声のトーンに戻すと、
「電波悪くて、ついつい大きな声になっちゃって。それより、おなかすいた~。今日のおかずなになに?」
と言いながら、いつもよりも弾んだ足取りでシャインの横をスルリとすり抜けた。そんなヒロの後ろ姿を見送った後、シャインはサイドテーブルに置かれたヒロのスマホに目をやった。そして、そっと首をすくめると、電気を消し、ゆっくりとドアを閉めた。
今日は、朝から高校サッカーの1部リーグが行われている。奈津とまなみはAチームに同行していた。詩帆は2部リーグに参加しているBチームの方に同行していて、今日はマネージャー3人は一緒ではなかった。詩帆がいないこともあり、奈津と2人だけになると、まなみは奈津にかなり立ち入った話を大胆に展開していた。
「タムラコウキ、課外にも来ないじゃん。しかもあれっきり、奈津に何の連絡もしてこないんでしょ。」
心と手が連動しているかのように荒々しくボトルを洗いながらまなみが話す。
「傷つくかも・・・だけど、きっと、タムラコウキは奈津のこと好きなんかじゃないよ。奈津のことちょっといいなあ・・・くらいは思ったのかもしれないけど・・・。」
言いながら、ボトルに一杯になった水を高めの位置から逆さにして落とす。
「2人がいい感じになった途端これだもん。奈津のことすっごいテキトーに扱ってない?なんかホントいい加減!やな奴!」
わざと、ポンッと流し台に音をたててボトルを置く。奈津は聞いているのかいないのか、何も言わず、黙々とボトルを洗っている。まなみの主張はまだまだ続く。
「それに比べて、悠介はさ、あの日も血相変えて飛んできて、奈津のこと抱えて保健室まで運んでくれたんよ。奈津は聞こえんかったと思うけど、悠介が奈津をお姫様抱っこしただけで、グランドや校舎の至る所から悲鳴がしてたんだから!」
まなみはその時の状況を思い出しながら、だいぶ高い位置まで昇ってきた太陽を見上げた。それから、奈津がいない方に顔を向けると、
「詩帆ちゃんもなんだから。」
と奈津には聞こえないようにつけ足した。奈津はキュッと水道の蛇口をひねって水を止めると、まなみの方を向いて
「いろいろありがとね。」
と言って笑った。そして、おもむろに、
「まなみ、大阪行くんでしょ。BEST FRIENDS。」
と、今までの話題と全く関係ない話を突然まなみに振ってきた。振られてまなみは面食らったが、今まさにファンミに行く直前の旬な話題だったので、今、自分が奈津に力説していたコウキと悠介の話などすっかり吹っ飛ばして、奈津の振りに思わず食いついてしまった。
「そうなの!前日、日本入りする関空にも加賀先輩と行くつもり!どうせなら、BEST FRIENDSたちが飛行機から降りてきたところも見たいもん!間近でヨンミンたちに会えるんよ~!!きゃ~!」
胸の前で手を組み、さっきまでのまなみとは別人のように少女になるまなみ。1人でボルテージが上がるまなみを笑顔で見つめていた奈津がポツリ・・・とつぶやいた。
「私も一緒に行こうかな。」
突然の奈津のこのつぶやきにまなみは自分の耳を疑う。
「えっと?BEST FRIENDSだよ。K-POPだよ。ファンミだよ。ショッピングじゃないんだよ!」
思わず念を押す。
「知ってる。」
表情を変えずに答える奈津の顔をまなみは思わずのぞき込む。
「えっと・・・。奈津勉強は?それに行っても奈津はファンミの会場は入れないんだよ?」
小さい子どもに言い聞かせるような口調になってるのがまなみは自分でも可笑しかった。でも、目の前にいる奈津は明らかにいつもの奈津ではない気がした。
「気晴らしが・・・したくて。」
奈津は下を向くとぽそっと答えた。
「あ~~~!そうだ!そうだね!それいいね!」
まなみは思わず奈津の手をとった。
「前日の空港まで一緒に行く。まなみと加賀先輩と・・・。その日にわたしは帰る・・・。」
奈津は、また、ぽそっと付け加えた。
「ちょっとした小旅行だ~!でも、USJとかじゃないんだよ?奈津にとっては行ってもつまんない空港だよ?ま、うちらにはお宝だけど!そんなんでいいの?気晴らしなら、また別で付き合うよ?」
まなみは奈津の手をブンブン上下に振りながら、また、小さい子どもに話すように話した。
「あの日、サッカー部休みだし。・・・それに区切りつけようと思って・・・。」
奈津は手を振られるままに任せながら、まなみにそう告げた。
「区切り?タムラコウキのこと?それいい!吹っ切れ、吹っ切れ!きっと、美しいBEST FRIENDSを見たら心洗われること間違いなし!タムラコウキなんかよりいい男は山のようにいるんだから!」
その時、アップの終わった悠介がこちらに向かって走ってくるのが見えた。悠介は2人の近くまで来ると、
「ボトルひとつもらうぞ。」
と言って、ボトルをひとつ取ったそして、
「お前らもちゃんと水分とれよ!奈津、もう倒れてもお前は運ばねーからな。お前重過ぎ!」
と言って笑った。
「な!!わたしが重いんじゃなくて、悠介の筋力が無さすぎなんでしょ!」
と走り去る悠介の背中に向かって奈津はいつものように言い返した。悠介は振り返ると、あっかんべえという表情を奈津に返した。
「ほ~ら、ここにもいい男いるじゃん!!」
まなみは奈津の手を握る自分の手に力を込めた。奈津はまなみを見ると、
「ほんとにね・・・。悠介はいつも傍にいてくれるね・・・。」
と言った。そして、奈津はまなみの手をほどき、グランドに目をやった。
その時、灼熱のグランドの熱風に混じり、一瞬涼しい風が奈津を通り過ぎて行った。その風が優しい声を運んでくる・・・。
『魔法使いじゃないんだから。消えたりできないよ。』
そう言って、奈津のほっぺたをつまんだあの時のコウキの手の感覚が蘇る・・・。
「嘘つき・・・。」
奈津は目をつぶる。
その時、後ろから、まなみの元気のいい声が追いかけてきた。
「奈津!BEST FRIENDS行こうね~!めっちゃ、楽しみ!」
優しいコウキの顔に重なるように、ピンク色の髪をした妖艶な表情のヒロの顔が浮かぶ・・・。それを振り払うように、思わず、奈津は思いっきり頭を振った・・・。
固定電話の受話器をとると、それに向かって、大きな声でタムラのばあちゃんは話した。受話器の向こう側では、少年がベッドに横になりスマホを片手にやっぱり大きな声で話していた。
「高校?はあ、ばあちゃんは高校のことはよう分からん。」
少年が何かを伝えようとするが、もう歳が90歳に近いのと、耳が少し遠いのとで、なかなか話が思うように伝わらない。それでも、少年は根気強く話を続ける。
「ばあちゃん、ぼく、そっちの高校やめ・・・」
少年がゆっくり言葉を句切り、大きな声でそう言いかけた時、
「高校ねえ・・・、高校・・・高校。あ~そうそう、そう言えば、この前、高校の女の子が来ちゃったよ。」
ばあちゃんが思いもかけないことを言った。少年はガバッと起き上がる。
「女の子?」
少年は両手でスマホを握ると慌てて聞き返す。ばあちゃんは相変わらずのんびりと答える。
「コウキくんいますか?言うて。」
ばあちゃんの言葉が終わるまで少年は待ちきれない。
「髪!髪は短かった?」
耳の遠いばあちゃんも思わず受話器を遠ざけてしまうくらい大きな声が出る。少年の大声が終わったのが分かると、ばあちゃんは再び受話器に耳をつけた。
「髪かね?帽子かぶっとったから、よう分からんじゃったけど・・・。」
やはり少年は、ばあちゃんの返事を最後まで聞けない。そして、またもや大きな声になる。
「名前は?名前言ってなかった?ナツって。ナツって言ってなかった?」
「名前ねえ・・・。言いよったと思うけど、忘れてしもうたねえ。」
少年とは真反対の調子で、たんたんとなんの悪気もなしに話すばあちゃんに、仕方ないと分かっていても、少年は苛立ちをぶつけてしまう・・・。
「ばあちゃん!!」
スマホを握りしめた手の甲におでこを当てる。そして、その甲で2.3度おでこを打った・・・。何で・・・?届きそうで届かない・・・。触れそうで触れられない・・・。そこまで来ているような気がするのに・・・。
「大切な子かね?」
暗がりの静かな部屋に、突然、スマホからばあちゃんののんびりした声がボソッと響く。少年の目の前に、鼻を真っ赤にさせて泣いている少女が見えた気がした・・・。少年はスマホを耳に当て直す。少年の声が返ってこないので、もう一度ばあちゃんが繰り返す。
「コウキの大切な子かね?」
思考を通さない、少年の溢れる想いが自然に口をついて出てくる。
「うん・・・。すごく大切・・・。」
言った途端、鼻の奥がツンとした・・・。
スマホと受話器とを挟んで、しばらく沈黙が流れる。
「そうかね。・・・目が綺麗じゃったね。」
ばあちゃんは少女の印象をそう語った・・・。その時、少年のいる部屋の扉が開き、電気がついた。
「あ、ばあちゃん、また、かける。母さんからも電話があると思う。・・・うん。またね。」
少年は分からないように鼻をすすると、スマホを切った。そして、それを握ったままベッドに仰向けに身を投げ出した。
電話が切れ、ばあちゃんはしばらく受話器を眺めていた。そして、
「そう、そう、また、忘れたらいけん。」
そうつぶやきながら受話器を置くと、電話の横に大きなクリップで束ねてある、裏の白い広告を一枚取り出し、マジックで大きく字を書いた。
『ナツ タイセツ』
そして、それを電話の上の壁に二つの画びょうでゆっくり止めた。
「ヒロ!ご飯できたぞ!何?電話?」
メイクを落として、ラフなホームウェアに着替えたシャインが戸口に立っていた。
「うん。」
天井を見たままヒロが答える。
「なんか大きな声出してたけど?」
シャインはできるだけサラッと訊いた。ヒロはスマホをサイドテーブルに置くと、勢いをつけてベッドから跳ね起きた。明るいシルバーに染められた髪がフワリとなびく。ヒロは何ごともなかったようにいつもの声のトーンに戻すと、
「電波悪くて、ついつい大きな声になっちゃって。それより、おなかすいた~。今日のおかずなになに?」
と言いながら、いつもよりも弾んだ足取りでシャインの横をスルリとすり抜けた。そんなヒロの後ろ姿を見送った後、シャインはサイドテーブルに置かれたヒロのスマホに目をやった。そして、そっと首をすくめると、電気を消し、ゆっくりとドアを閉めた。
今日は、朝から高校サッカーの1部リーグが行われている。奈津とまなみはAチームに同行していた。詩帆は2部リーグに参加しているBチームの方に同行していて、今日はマネージャー3人は一緒ではなかった。詩帆がいないこともあり、奈津と2人だけになると、まなみは奈津にかなり立ち入った話を大胆に展開していた。
「タムラコウキ、課外にも来ないじゃん。しかもあれっきり、奈津に何の連絡もしてこないんでしょ。」
心と手が連動しているかのように荒々しくボトルを洗いながらまなみが話す。
「傷つくかも・・・だけど、きっと、タムラコウキは奈津のこと好きなんかじゃないよ。奈津のことちょっといいなあ・・・くらいは思ったのかもしれないけど・・・。」
言いながら、ボトルに一杯になった水を高めの位置から逆さにして落とす。
「2人がいい感じになった途端これだもん。奈津のことすっごいテキトーに扱ってない?なんかホントいい加減!やな奴!」
わざと、ポンッと流し台に音をたててボトルを置く。奈津は聞いているのかいないのか、何も言わず、黙々とボトルを洗っている。まなみの主張はまだまだ続く。
「それに比べて、悠介はさ、あの日も血相変えて飛んできて、奈津のこと抱えて保健室まで運んでくれたんよ。奈津は聞こえんかったと思うけど、悠介が奈津をお姫様抱っこしただけで、グランドや校舎の至る所から悲鳴がしてたんだから!」
まなみはその時の状況を思い出しながら、だいぶ高い位置まで昇ってきた太陽を見上げた。それから、奈津がいない方に顔を向けると、
「詩帆ちゃんもなんだから。」
と奈津には聞こえないようにつけ足した。奈津はキュッと水道の蛇口をひねって水を止めると、まなみの方を向いて
「いろいろありがとね。」
と言って笑った。そして、おもむろに、
「まなみ、大阪行くんでしょ。BEST FRIENDS。」
と、今までの話題と全く関係ない話を突然まなみに振ってきた。振られてまなみは面食らったが、今まさにファンミに行く直前の旬な話題だったので、今、自分が奈津に力説していたコウキと悠介の話などすっかり吹っ飛ばして、奈津の振りに思わず食いついてしまった。
「そうなの!前日、日本入りする関空にも加賀先輩と行くつもり!どうせなら、BEST FRIENDSたちが飛行機から降りてきたところも見たいもん!間近でヨンミンたちに会えるんよ~!!きゃ~!」
胸の前で手を組み、さっきまでのまなみとは別人のように少女になるまなみ。1人でボルテージが上がるまなみを笑顔で見つめていた奈津がポツリ・・・とつぶやいた。
「私も一緒に行こうかな。」
突然の奈津のこのつぶやきにまなみは自分の耳を疑う。
「えっと?BEST FRIENDSだよ。K-POPだよ。ファンミだよ。ショッピングじゃないんだよ!」
思わず念を押す。
「知ってる。」
表情を変えずに答える奈津の顔をまなみは思わずのぞき込む。
「えっと・・・。奈津勉強は?それに行っても奈津はファンミの会場は入れないんだよ?」
小さい子どもに言い聞かせるような口調になってるのがまなみは自分でも可笑しかった。でも、目の前にいる奈津は明らかにいつもの奈津ではない気がした。
「気晴らしが・・・したくて。」
奈津は下を向くとぽそっと答えた。
「あ~~~!そうだ!そうだね!それいいね!」
まなみは思わず奈津の手をとった。
「前日の空港まで一緒に行く。まなみと加賀先輩と・・・。その日にわたしは帰る・・・。」
奈津は、また、ぽそっと付け加えた。
「ちょっとした小旅行だ~!でも、USJとかじゃないんだよ?奈津にとっては行ってもつまんない空港だよ?ま、うちらにはお宝だけど!そんなんでいいの?気晴らしなら、また別で付き合うよ?」
まなみは奈津の手をブンブン上下に振りながら、また、小さい子どもに話すように話した。
「あの日、サッカー部休みだし。・・・それに区切りつけようと思って・・・。」
奈津は手を振られるままに任せながら、まなみにそう告げた。
「区切り?タムラコウキのこと?それいい!吹っ切れ、吹っ切れ!きっと、美しいBEST FRIENDSを見たら心洗われること間違いなし!タムラコウキなんかよりいい男は山のようにいるんだから!」
その時、アップの終わった悠介がこちらに向かって走ってくるのが見えた。悠介は2人の近くまで来ると、
「ボトルひとつもらうぞ。」
と言って、ボトルをひとつ取ったそして、
「お前らもちゃんと水分とれよ!奈津、もう倒れてもお前は運ばねーからな。お前重過ぎ!」
と言って笑った。
「な!!わたしが重いんじゃなくて、悠介の筋力が無さすぎなんでしょ!」
と走り去る悠介の背中に向かって奈津はいつものように言い返した。悠介は振り返ると、あっかんべえという表情を奈津に返した。
「ほ~ら、ここにもいい男いるじゃん!!」
まなみは奈津の手を握る自分の手に力を込めた。奈津はまなみを見ると、
「ほんとにね・・・。悠介はいつも傍にいてくれるね・・・。」
と言った。そして、奈津はまなみの手をほどき、グランドに目をやった。
その時、灼熱のグランドの熱風に混じり、一瞬涼しい風が奈津を通り過ぎて行った。その風が優しい声を運んでくる・・・。
『魔法使いじゃないんだから。消えたりできないよ。』
そう言って、奈津のほっぺたをつまんだあの時のコウキの手の感覚が蘇る・・・。
「嘘つき・・・。」
奈津は目をつぶる。
その時、後ろから、まなみの元気のいい声が追いかけてきた。
「奈津!BEST FRIENDS行こうね~!めっちゃ、楽しみ!」
優しいコウキの顔に重なるように、ピンク色の髪をした妖艶な表情のヒロの顔が浮かぶ・・・。それを振り払うように、思わず、奈津は思いっきり頭を振った・・・。