少し時間が経ってだいぶ落ち着いてきた。
ゆっくり顔を上げるとすぐそこに表情は変わらない柳瀬くんの顔があった。
台の壁にもたれて、台の影が柳瀬くんを覆う。
暗いからわかりにくいけど、いつもと違うすごく優しい目。
少しはだけだ制服は私のせいだ。
「ごめん、私!」
スッ
前髪が私のおでこにかかる。
そして、柳瀬くんの指が私の唇を拭う。
「可愛くなる理由は?モテたいんだ。鈴村」
「違うよ!ただ好きな人に可愛いと思って欲し
いから」
「高野先輩のこと好きなの?」
わたしは本当に高野先輩のことが好きだったのかな?
私は、"恋に恋してただけ"なの?
ただ単に高野先輩への恋心は、焦りから来た恋に恋する心だったのかもしれない。
……私はずっと気付かないふりをしていたのかな?
ただ逃げてただけなのかな?
始まりたくなかった始まりに……
「違う。好きな人。ちゃんとできたから」
いつもポーカーフェイスの柳瀬くん眉毛が少し動く。
「そっか」