とことこと、可愛らしい音。
 てくてくと、かるやかな音。

 歩く少女。
 先を行く月。

 追い付けない追いかけっこ。

 捕まらない鬼ごっこ。

 見上げる首が痛くなっても、少女は前を見続けた。

 茸傘の並木道を突っ切って、

 樹液の小川を通り過ぎ、

 鈴虫の演奏会を見過ごし、

 暗い海を泳ぐ月を追い掛けた。



 そんな少女の目の前を、大きな影が飛び出していった。
 風を叩く羽。
 黒いタイツ。
 輝かしい角のハット。

「何処へ行くのかね少女よ!」

「今夜も好いダンス日和、いや月和だ」

「お相手が見つからないなら、ボクなどどうだろう」

 胡散臭い兜虫が少女を誘う。
 パートナーだったさなぎの少女や幼態の子供は不満げだ。

 そんな彼らに悪気を抱くことなく。

「悪い。私は先を急ぐんだ」

 差し出された手を取らず、通り過ぎていった。

 待ちたまえ、と懲りずに追い縋る兜虫。少女は律儀に立ち止まった。

「こんなに月が蒼いのだぞ」

「一緒に踊りましょう!」

「私は行くところがあるんだ」

 やはり、伸ばされた手は取らない。

 Oh、とガッカリする兜虫。
 パートナーたちは膨れっ面で待っていた。

「お前たちは踊る人だ」

 手を取って踊りだす。
 何処からともなく音楽が鳴る。

 哀しげな顔も
 怒った顔も

 踊りだせば途端に嘘になる。

 それが少し羨ましかった。

 少女は、踊る役ではないのだ。