「綾那」
「えっ…!?」
「起こしてくれてサンキュ。
支度してくるわ」
「え、あ…うん」
…突っ込まれなかった。
でもなんか、本人にイケメンだとか言ってるのもし聞かれてたら
めちゃくちゃ恥ずかしいなぁ…
「綾那、ご飯よー」
「はーい」
ま、気にしても仕方ない、か。
っていうかイケメンについては触れてこなかったし、もしかしたらそこは聞いていなかったのかもしれないし!
そうだよ、きっと後半の話しか聞いてなかったんだよ!
悩んでても仕方ないじゃん!
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支度が終わり、8時すぎに家を出た。
8時半までに行けばいい学校だし、歩いて15分もかからないしね。
ま、でもエレベーターがすぐ来てくれなかったりしたら困るから、気持ち早めに。
早めに行ったら女の子が話しかけてくれるかもしれないし!!
今日こそは女の子と話したい!仲良くなりたい!!
お昼も、一緒に食べる人いないのは寂しすぎるしね…
8時20分頃学校に着くと、教室の中はもう結構にぎわっていた。
みんな結構朝早いんだなぁ…
「都築ちゃん、おはよ!」
・・・うわ、いきなり男子。
どうして男子が話しかけてくるんだっ…!
「…おはよ」
・・・この人は、いったいなんていう名前なんだろ。
確か昨日、一樹のことを”つっちー”と呼んでいたし、一樹と仲がいい人、だよね?
さすが、一樹の友達というだけあって、この人も髪の毛は派手…でも、やっぱり金髪ではないから?先生には昨日呼び出されてなかったよね。
でもけっこうオレンジっぽい色だけど…いいんだ?これはセーフなんだ?
線引きが難しいなぁ…
「あ、つっちー!
朝からちゃんと来るとか珍しい~」
「おう、まぁな」
一樹はそう言って、また私の隣の席に座った。
「あ、そうだ」
私も、顔を見て挨拶しようと一樹の方を見たら
「ん。」
なぜか、一樹の手には、どう見ても私のスマホが。
「え、え?」
「玄関に置きっぱなしだったって。
朝、おばさんとばったり会って」
「あ、ありがと」
あれ、私玄関にスマホ置いたまま出てきちゃったんだ…
全然覚えてないや…
まぁ、使うこともないんだけどなぁ…
お母さんのことだから
『友達と連絡先交換するときに必要!!』
みたいに思ったんだろうな、きっと。
…必要に、なるといいんだけどなぁ…
「ちょっと待て。
なんで都築ちゃんの母ちゃんが、つっちーのこと知ってんの」
「…前に挨拶されたから?」
「そもそもばったり会うか!?」
「あー、俺んちの隣だから」
「誰が」
「綾那が」
「・・・はぁ~!?」
「ちょ、声大きい…」
なんでそんな大きな声で反応するんだっ!
みんなが注目するじゃないか!!
「お前それずるすぎだろ!」
「…なにが」
「学校でも隣、家も隣なんて
つっちーばっか都築ちゃん独占しててずるい!
ってかいつの間に名前で呼ぶようになってんだよ!」
・・・だから、声大きいってば…
「…別に独占してねぇだろ」
「いーや、してる!!
俺も都築ちゃんと仲良くなりたい!」
・・・いや、あの
隣だからと言って仲がいいわけではないのではないのではないでしょうかね…
…あ、でも
隣に住んでなかったら、一樹と仲良くなることってなかったかも。
マンションのエントランスで会うことだってないわけで、エレベーターで一緒になることもないわけで。
窓越しに話したりすることもないし、お米研ぎに行くことだってないし。
こう思うと、やっぱり隣に住んでるって大きいことなんだなぁ…
「ねぇ、俺とも友達になってよ!」
「え、私が…ですか?」
「他にいるわけないじゃん!」
「…それは全然いいんですけど
その前に、名前教えてくれない…?」
まずはそこからでしょ。
友達は大歓迎だよ。ここでも楽しくやっていきたいもん。
でもさすがに名前も知らないって言うのはないよね。
「あ、ごめん!
俺楢橋慧!よろしく!
慧でいいよ!」
「あ、うん
私のことも、どうぞ名前で呼んでください」
「まじ!?
じゃあ遠慮なく、今から綾那ちゃんって呼ぶわ!」
綾那でもいいんだけど…
まぁ、この人のキャラ的に、ちゃん付けが必須なのかな?
それからLINEの交換もして、私の友達リストにはまた新たに、”楢橋慧”の名前が増えた。
「…綾那ちゃん、なんか嬉しそうだね?」
「ふふ、嬉しいよ。
やっぱり友達が増えるっていいね」
昨日は話すこともできなかったのにね。
っていうか、めっちゃ避けてたし嫌だったのにね。
自分の心境の変化がすごいや。
「俺も綾那ちゃんと友達になれて嬉しいよー!」
「はいはい」
・・・まぁ、一樹は相変わらず
冷めた表情をしていたけど。
「…にしても、全然女の子からは話しかけてもらえないや…」
「え、そうなの?」
「え、逆に知らなかったの?」
あんなに話しかけてきておいて…
というか、慧がいたからなおさら来ないんじゃ…と思ってたんだけど…?
「綾那ちゃん、友達ほしいんだ?」
「え、そりゃ欲しいよ!」
いらないわけないじゃん!!
毎日女の子の友達と和気藹藹楽しく過ごしたいよ!
「なんだー、それ言ってくれれば協力したのにー」
「え?」
え、協力…?してくれるの?・・・慧が?
「めぐー!まい―!」
え、ちょっとちょっとちょっと…!?
めぐ、まいって言ったら…
このクラスで一番目立ってる、めっっっちゃギャルな2人じゃない…!?
い、いやいやいやいや!!
明らか2軍くらいの私が、そんな1軍女子と仲よくとか…釣り合ってないにも程がない!?
「えー?なにー?」
い、いやいやいや!!来なくていいって!!
絶対釣り合ってないって!!
ってか若干怖いよっ!!
「なに、慧」
「なんか用?」
「あんなー、綾那ちゃんが女友達が欲しいんだってー
だから友達にどうかなーって」
「え、うちらが?」
「この転校生と?友達?」
・・・ほら、嫌でしょ。
嫌でしょ!?
だって明らか釣り合ってないもん!!
そりゃ慧とか、一樹には合ってそうだけど…
明らか私だけ地味じゃん!!
超2軍なんですけど…!?
「本当!?うちらでいいの!?」
・・・あ、あれ?
「なんだー、それなら話しかけてくれればいいのに!
都築さん、おしとやかそうでうちらみたいなの苦手かと思ってた~」
い、いや…苦手には苦手なんだけど…
…でも、なんか思ってたより…いい人そう…?
全然嫌そうじゃないや…
「私、吉井めぐみ!
んでこっちが吉川まいね」
「あ、都築綾那ですっ」
「あはは、知ってるー!」
「めぐとまいでいいからっ!
うちらも綾那って呼ぶし!
よろしくねー」
「あ、はい!」
「はは、綾那ちゃん、また敬語になってるよ」
…だって、
やっぱりギャルって、なんか緊張するんだもん!!
田舎にはこういう本格的ギャルってほとんど見かけないしさ…
それから休み時間も、お昼も、
毎回、いつもダルそうで無口な一樹と、みんなに優しい慧と、派手で元気で思ってたよりずっと優しいめぐとまいと
ずーーーーっと一緒にいた。
やっぱりまだギャルな2人には緊張もするけど…でも、2人がすごく優しくしてくれるし、いっぱい話しかけてくれるから
私も自然と、笑えるようになっていた。
___放課後、
「やっと楽しい日がきたよー」
『よかったじゃん』
私はまた、里穂と電話をしていた。
帰り道は途中までめぐとまいと一緒だったけど、2人とも今日はバイトらしくて途中でバイバイした。
めぐは居酒屋、まいはショップ店員…
なんか、ふたりとも似合いすぎだなー
「でもギャルってなかなか慣れないけどね」
『まぁこっちにはあんまりいないもんねー
さすが東京って感じ』
「ね。でも仲良くなれそうだし、話してても楽しいからなんとかなりそうで本当安心してるよー
ボッチだったらどうしようってずっと不安だったんだよね。体育とかさ」
『あー、体育でボッチはきついね』
「でしょー?」
そんな話をしていたら
「綾那ー!ちょっとー!」
お母さんが大きな声で私を呼んだ。
「はーい!
…ごめん、お母さんに呼ばれちゃったからまたかけるね」
『ん、わかったー』
里穂との電話を切ってリビングに向かうと、お母さんはキッチンに立って夕食の支度をしていた。
「あ、綾那悪いんだけど
油切らしちゃって…買ってきてくれない?」
「えー、私ー?」
「今こっち目が離せないのよー。
あ、そうだ
これ、あげるから。お願い!」
お母さんはそういって手を拭いてから、なにかを持ってこっちにきた。
「なにこれ」
「遊園地の招待券。
このマンション買ったとき、不動産屋さんからもらったの。
2枚あるから、誰か友達誘って行ってらっしゃい?」
…2枚、かぁ
「あ、あとこれお金。
油、お願いね」
「…決定なのね」
「だってご飯食べられないの、嫌でしょ?
今日はエビフライの予定だからお願い」
「・・・はいはい」
仕方ない、行くか。
エビフライのためだね!!
私はお母さんのお財布を握りしめて
さっきの遊園地の招待券はポケットにしまい
制服姿のまま、夕方でまだ明るいうちにスーパーへと向かい、いつもの油を買って帰路についた。
なんだかんだ片道10分くらいかかるし、自転車があったら便利なのにな…
自転車くらい買ってくれればいいのにな。
っていうか、静岡から持ってくればよかったのに。
「あれ、綾那?」
名前を呼ばれ、路地の方を見ると
「あ、一樹」
一樹が歩いていた。
「なにやってんだよ」
「え、おつかいでスーパー行ってただけだけど。
一樹こそ何してんの?そんなところから出てきて」
「別に。慧とゲーセンいった帰り」
「へー。思ったより帰り早いんだね」
「まぁな」
慧とゲーセンか。
確かに2人で帰ってたね。仲よしだなぁ。
「そういや、めぐとまいのことだけど」
「うん?」
「あれ、2人とも慧の元カノだから」
「え!?2人とも!?」
「そ。まぁだからなんだって話だけど」
「へー…」
なんか、すごいな…
どっちが先かは知らないけど、でも友達と付き合ってた人と付き合うわけでしょ?
それもそれですごい話だなぁ…