……なんか、もったいないな。
こんな朝が気持ちいいって知らないなんてね。
「暇だし、里穂にLINEでもするか」
里穂はさすがに起きてるよね…?
あの子、お弁当自分で作ってるし…
『起きてる?』とLINEを送ると『当たり前』と返事がすぐに来て、私は思わず里穂に電話をかけた。
『なに、朝から』
「今日なんか目覚め良くて!
朝早く起きちゃったんだよね~!」
『あっそ…
あ、そういえば夢は?まだ朝だから内容覚えてるんじゃない?』
「え、夢?」
あれ…?そういえば、今日夢見た…っけ?
見てなくない…?っていうか、覚えてないだけか…?
『綾那―?』
「あ、ごめんっ…
それが今日は夢見たかどうかも覚えてなくって…」
『え、そういう日もあるんだね?』
「見た日は覚えてるように気を付けてるんだけどね…」
…でも、こんなこと珍しいよね…?
とくにここ最近はずっと夢見てきたのに…
…また、明日は見れるよね…?また会えるよね…?
『…綾那?』
「え、あっ…ごめん、なに?」
『新しい学校はどう?友達できた?
昨日の夜電話なかったからどうしたのかと思ってたの』
「あ、うん
…まぁ、一応男友達ができました」
『え、男!?なんで!?』
「それが…かくかくしかじか…て感じでして…」
『あーまぁ、うん
綾那可愛いから仕方ないね』
「今までこんなんなったことないのに…!!」
『まぁ、前の学校の男子はみんな陰キャだったし、そういう色恋的なやつに無関係って感じだったじゃん?
彼氏いる子だってみんな他校の人と付き合ってたわけだし。
それが、華の都の高校ともなるとそれも違ってくるでしょうが』
「…でもモテ期なのか、ただ単に珍しがられてるだけなのかわからない…
っていうか珍しがられてる方が強めな気がする…」
『いやいや、綾那可愛いから本気になってるやつも絶対いる』
「そんな可愛くないから!!」
そんな、くだらない話をしていたらあっという間に7時前になっていて…
「あ、ごめん里穂。
私例の男友達を起こす時間なんだ」
『は!?なにそれ!』
「詳しくはまた話すよ。
とりあえず切るよ?」
私はそれだけ言って電話を切り、今度は”土屋一樹”の文字をタップする。
…なんか、昨日普通に話せたのに、電話ってなるとなんか緊張するの、なんでだろうね…
……よし、かけるぞ!!
「綾那」
「うぇっ…!?」
え、なな、なに!?
え、どっから声が…?
「もう、起きてる」
「え…」
…あ、窓の外…からか…
びっくりしたー…
「つ、土屋くん…おはよ」
「はよ。
ってか一樹でいいって」
「あ、そうだった。
一樹ね、一樹」
もうすっかり忘れてた。
名前で呼ぶから名前で呼べって言われてたんだった。
「ってか起きるの早いじゃん。
7時まであと2分あるよ?」
「俺窓開けて寝てたから、綾那のでかい声で起きた」
「え!?」
「朝からどんだけでかい声で話してんだよ」
「で、でかい声じゃないもんっ…!」
「…十分でかかったけど?」
全く顔は見えないけど…
でも、声色だけで一樹がちょっと笑ってるってのがわかるや…
「ってか綾那モテ期なわけ?」
「えっ!話聞いて…!?」
「だから、あんなでかい声で話してたら嫌でも聞こえるっつーの。
聞かれたくなかったら窓はしっかり閉めとけ」
…うわぁ…、なんかめっちゃ恥ずかしいじゃん…!!
私一樹のこと、変な風に言ってなかったよね…?
イケメンだとか…
・・・言った、気がする。
『その男友達どんな人?』
『とりあえずめっちゃイケメン!
静岡にはまずいないイケメン!』
・・・がっつり、言ってました。
言ってました。結構なボリュームで…
「綾那」
「えっ…!?」
「起こしてくれてサンキュ。
支度してくるわ」
「え、あ…うん」
…突っ込まれなかった。
でもなんか、本人にイケメンだとか言ってるのもし聞かれてたら
めちゃくちゃ恥ずかしいなぁ…
「綾那、ご飯よー」
「はーい」
ま、気にしても仕方ない、か。
っていうかイケメンについては触れてこなかったし、もしかしたらそこは聞いていなかったのかもしれないし!
そうだよ、きっと後半の話しか聞いてなかったんだよ!
悩んでても仕方ないじゃん!
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支度が終わり、8時すぎに家を出た。
8時半までに行けばいい学校だし、歩いて15分もかからないしね。
ま、でもエレベーターがすぐ来てくれなかったりしたら困るから、気持ち早めに。
早めに行ったら女の子が話しかけてくれるかもしれないし!!
今日こそは女の子と話したい!仲良くなりたい!!
お昼も、一緒に食べる人いないのは寂しすぎるしね…
8時20分頃学校に着くと、教室の中はもう結構にぎわっていた。
みんな結構朝早いんだなぁ…
「都築ちゃん、おはよ!」
・・・うわ、いきなり男子。
どうして男子が話しかけてくるんだっ…!
「…おはよ」
・・・この人は、いったいなんていう名前なんだろ。
確か昨日、一樹のことを”つっちー”と呼んでいたし、一樹と仲がいい人、だよね?
さすが、一樹の友達というだけあって、この人も髪の毛は派手…でも、やっぱり金髪ではないから?先生には昨日呼び出されてなかったよね。
でもけっこうオレンジっぽい色だけど…いいんだ?これはセーフなんだ?
線引きが難しいなぁ…
「あ、つっちー!
朝からちゃんと来るとか珍しい~」
「おう、まぁな」
一樹はそう言って、また私の隣の席に座った。
「あ、そうだ」
私も、顔を見て挨拶しようと一樹の方を見たら
「ん。」
なぜか、一樹の手には、どう見ても私のスマホが。
「え、え?」
「玄関に置きっぱなしだったって。
朝、おばさんとばったり会って」
「あ、ありがと」
あれ、私玄関にスマホ置いたまま出てきちゃったんだ…
全然覚えてないや…
まぁ、使うこともないんだけどなぁ…
お母さんのことだから
『友達と連絡先交換するときに必要!!』
みたいに思ったんだろうな、きっと。
…必要に、なるといいんだけどなぁ…
「ちょっと待て。
なんで都築ちゃんの母ちゃんが、つっちーのこと知ってんの」
「…前に挨拶されたから?」
「そもそもばったり会うか!?」
「あー、俺んちの隣だから」
「誰が」
「綾那が」
「・・・はぁ~!?」
「ちょ、声大きい…」
なんでそんな大きな声で反応するんだっ!
みんなが注目するじゃないか!!
「お前それずるすぎだろ!」
「…なにが」
「学校でも隣、家も隣なんて
つっちーばっか都築ちゃん独占しててずるい!
ってかいつの間に名前で呼ぶようになってんだよ!」
・・・だから、声大きいってば…
「…別に独占してねぇだろ」
「いーや、してる!!
俺も都築ちゃんと仲良くなりたい!」
・・・いや、あの
隣だからと言って仲がいいわけではないのではないのではないでしょうかね…
…あ、でも
隣に住んでなかったら、一樹と仲良くなることってなかったかも。
マンションのエントランスで会うことだってないわけで、エレベーターで一緒になることもないわけで。
窓越しに話したりすることもないし、お米研ぎに行くことだってないし。
こう思うと、やっぱり隣に住んでるって大きいことなんだなぁ…
「ねぇ、俺とも友達になってよ!」
「え、私が…ですか?」
「他にいるわけないじゃん!」
「…それは全然いいんですけど
その前に、名前教えてくれない…?」
まずはそこからでしょ。
友達は大歓迎だよ。ここでも楽しくやっていきたいもん。
でもさすがに名前も知らないって言うのはないよね。
「あ、ごめん!
俺楢橋慧!よろしく!
慧でいいよ!」
「あ、うん
私のことも、どうぞ名前で呼んでください」
「まじ!?
じゃあ遠慮なく、今から綾那ちゃんって呼ぶわ!」
綾那でもいいんだけど…
まぁ、この人のキャラ的に、ちゃん付けが必須なのかな?
それからLINEの交換もして、私の友達リストにはまた新たに、”楢橋慧”の名前が増えた。
「…綾那ちゃん、なんか嬉しそうだね?」
「ふふ、嬉しいよ。
やっぱり友達が増えるっていいね」
昨日は話すこともできなかったのにね。
っていうか、めっちゃ避けてたし嫌だったのにね。
自分の心境の変化がすごいや。
「俺も綾那ちゃんと友達になれて嬉しいよー!」
「はいはい」
・・・まぁ、一樹は相変わらず
冷めた表情をしていたけど。
「…にしても、全然女の子からは話しかけてもらえないや…」
「え、そうなの?」
「え、逆に知らなかったの?」
あんなに話しかけてきておいて…
というか、慧がいたからなおさら来ないんじゃ…と思ってたんだけど…?
「綾那ちゃん、友達ほしいんだ?」
「え、そりゃ欲しいよ!」
いらないわけないじゃん!!
毎日女の子の友達と和気藹藹楽しく過ごしたいよ!
「なんだー、それ言ってくれれば協力したのにー」
「え?」
え、協力…?してくれるの?・・・慧が?
「めぐー!まい―!」
え、ちょっとちょっとちょっと…!?
めぐ、まいって言ったら…
このクラスで一番目立ってる、めっっっちゃギャルな2人じゃない…!?
い、いやいやいやいや!!
明らか2軍くらいの私が、そんな1軍女子と仲よくとか…釣り合ってないにも程がない!?
「えー?なにー?」
い、いやいやいや!!来なくていいって!!
絶対釣り合ってないって!!
ってか若干怖いよっ!!
「なに、慧」
「なんか用?」
「あんなー、綾那ちゃんが女友達が欲しいんだってー
だから友達にどうかなーって」
「え、うちらが?」
「この転校生と?友達?」
・・・ほら、嫌でしょ。
嫌でしょ!?
だって明らか釣り合ってないもん!!
そりゃ慧とか、一樹には合ってそうだけど…
明らか私だけ地味じゃん!!
超2軍なんですけど…!?
「本当!?うちらでいいの!?」
・・・あ、あれ?
「なんだー、それなら話しかけてくれればいいのに!
都築さん、おしとやかそうでうちらみたいなの苦手かと思ってた~」
い、いや…苦手には苦手なんだけど…
…でも、なんか思ってたより…いい人そう…?
全然嫌そうじゃないや…
「私、吉井めぐみ!
んでこっちが吉川まいね」
「あ、都築綾那ですっ」
「あはは、知ってるー!」
「めぐとまいでいいからっ!
うちらも綾那って呼ぶし!
よろしくねー」
「あ、はい!」
「はは、綾那ちゃん、また敬語になってるよ」
…だって、
やっぱりギャルって、なんか緊張するんだもん!!
田舎にはこういう本格的ギャルってほとんど見かけないしさ…