「ってか俺ずっと思ってたんだけど」
「…え?」
「お前の顔、どっかで見たことある」
「…え?」
え、なにそれ
どういうこと…?
…もしかして、やっぱり夢のイケメンは、土屋くんなの…?
土屋くんも、同じ夢を見てくれてたとか…
…そんなこと、ありえないよね。
同じ夢を見るなんて、ありえなさすぎ。
ってか夢のイケメンが土屋くんってのも変だよね。
だって里穂が見たことある人じゃないと夢には出てこないって言ってたし…
「…他人の、空似じゃない?」
私がそういうと、土屋くんは目線を下に落として少しため息をついた。
「…ま、そうだよな。
ってか、米ありがとな。またなんかあったら頼むわ」
「え、えぇ!?
さすがに覚えなよ!」
「無理。
俺は絶対料理できる女と結婚する」
「……なにそれ」
「やっぱり俺ができないことできるようなやつの方が尊敬するじゃん?」
「もー、それどういう理屈なの」
…あ、なんか
私、土屋くんと話すの、平気かも。
楽しいや。
「……ねぇ、また窓越しでも話しかけていい?」
「…窓越しって。まぁ俺は別にいいけど…お前はそれでいいわけ?」
「え、なんで?」
「窓開けてたら暑いし、お互い窓開けてるってたまにしかないだろ」
「…確かに」
「……スマホ出せ、スマホ」
「え、持ってきてないよ!?」
「……ったく」
土屋くんはまた小さなため息を吐いて、かと思えばそこにあったメモになにか書いていた。
「ん。
なんかあったらLINEして来いよ」
「え、いいの?」
紙には、土屋くんの電話番号と、LINEのIDが書かれていた。
「どうせなら朝も起こして」
「…いやいや、自分で起きなよ」
「いつも自分で起きようとして寝坊して遅刻して、結局怒られてる」
「……まぁ別にいいけどさ…
そういうのは普通、彼女にやってもらうんだからね?」
「いねーし、いいじゃん。お前がしてくれるんだったら」
…あ、いないんだ。
こんなかっこいいのにね。
「その代わり、話も聞いてやるし」
「いつも話っていう話はしてないじゃん!」
「でも、こっちにはまだ俺しか話せるやつ、いねぇだろ」
…はい、ごもっともで…
「……でもすぐできるもん!!」
「まぁそうだろうけど。
でもそれでも俺を起こすのは毎日頼むわ」
「…彼女ができるまで、だからね」
「はいはい」
「あ、あと
”お前”って呼ぶの、やめてよねっ」
「は?じゃあなんて呼ぶんだよ」
・・・いや、さっき私のこと都築って呼んでましたよね?
クラスの男子に向かって、私のことを都築って呼んでましたよね?
「…都築でいいですけど」
「綾那って呼ぶわ」
「いやなんで」
「だから俺のことも、一樹って呼べよ」
「……っ、
もう、なんでもいいよ!」
翌日、私の目覚めはすごくよかった。
LINEの友達リストに”土屋一樹”が増えて
なにか反応があったわけではないし、こちらから送ったりもしていないんだけど
でもなんか、新しい友達が増えるって、やっぱり気分がいいや。
「おっはよー!」
「あら、綾那おはよ。
今日はいつもより早いんじゃない?」
「ふふ、なんか目が覚めちゃって」
まだ6時。
暑い夏でも、部屋の窓を開けたらひんやりとした気持ちのいい風が入ってきて、つくづく高層マンションはいいなぁなんて思わされた。
……窓、土屋くんも開けてないかな。
「…お母さん、ご飯できたら呼んでね」
「はいはい」
私はそれだけ言って、着替えもしないとだし顔だけ洗って部屋へと戻った。
気持ちのいい風が吹き込む窓に、少し顔を出して
「…おはよ」
この空気に、挨拶をした。
……でも、それに帰ってくる声は聞こえない。
「…まだ寝てるか」
さすがにまだ早すぎ、だよね…
……なんか、もったいないな。
こんな朝が気持ちいいって知らないなんてね。
「暇だし、里穂にLINEでもするか」
里穂はさすがに起きてるよね…?
あの子、お弁当自分で作ってるし…
『起きてる?』とLINEを送ると『当たり前』と返事がすぐに来て、私は思わず里穂に電話をかけた。
『なに、朝から』
「今日なんか目覚め良くて!
朝早く起きちゃったんだよね~!」
『あっそ…
あ、そういえば夢は?まだ朝だから内容覚えてるんじゃない?』
「え、夢?」
あれ…?そういえば、今日夢見た…っけ?
見てなくない…?っていうか、覚えてないだけか…?
『綾那―?』
「あ、ごめんっ…
それが今日は夢見たかどうかも覚えてなくって…」
『え、そういう日もあるんだね?』
「見た日は覚えてるように気を付けてるんだけどね…」
…でも、こんなこと珍しいよね…?
とくにここ最近はずっと夢見てきたのに…
…また、明日は見れるよね…?また会えるよね…?
『…綾那?』
「え、あっ…ごめん、なに?」
『新しい学校はどう?友達できた?
昨日の夜電話なかったからどうしたのかと思ってたの』
「あ、うん
…まぁ、一応男友達ができました」
『え、男!?なんで!?』
「それが…かくかくしかじか…て感じでして…」
『あーまぁ、うん
綾那可愛いから仕方ないね』
「今までこんなんなったことないのに…!!」
『まぁ、前の学校の男子はみんな陰キャだったし、そういう色恋的なやつに無関係って感じだったじゃん?
彼氏いる子だってみんな他校の人と付き合ってたわけだし。
それが、華の都の高校ともなるとそれも違ってくるでしょうが』
「…でもモテ期なのか、ただ単に珍しがられてるだけなのかわからない…
っていうか珍しがられてる方が強めな気がする…」
『いやいや、綾那可愛いから本気になってるやつも絶対いる』
「そんな可愛くないから!!」
そんな、くだらない話をしていたらあっという間に7時前になっていて…
「あ、ごめん里穂。
私例の男友達を起こす時間なんだ」
『は!?なにそれ!』
「詳しくはまた話すよ。
とりあえず切るよ?」
私はそれだけ言って電話を切り、今度は”土屋一樹”の文字をタップする。
…なんか、昨日普通に話せたのに、電話ってなるとなんか緊張するの、なんでだろうね…
……よし、かけるぞ!!
「綾那」
「うぇっ…!?」
え、なな、なに!?
え、どっから声が…?
「もう、起きてる」
「え…」
…あ、窓の外…からか…
びっくりしたー…
「つ、土屋くん…おはよ」
「はよ。
ってか一樹でいいって」
「あ、そうだった。
一樹ね、一樹」
もうすっかり忘れてた。
名前で呼ぶから名前で呼べって言われてたんだった。
「ってか起きるの早いじゃん。
7時まであと2分あるよ?」
「俺窓開けて寝てたから、綾那のでかい声で起きた」
「え!?」
「朝からどんだけでかい声で話してんだよ」
「で、でかい声じゃないもんっ…!」
「…十分でかかったけど?」
全く顔は見えないけど…
でも、声色だけで一樹がちょっと笑ってるってのがわかるや…
「ってか綾那モテ期なわけ?」
「えっ!話聞いて…!?」
「だから、あんなでかい声で話してたら嫌でも聞こえるっつーの。
聞かれたくなかったら窓はしっかり閉めとけ」
…うわぁ…、なんかめっちゃ恥ずかしいじゃん…!!
私一樹のこと、変な風に言ってなかったよね…?
イケメンだとか…
・・・言った、気がする。
『その男友達どんな人?』
『とりあえずめっちゃイケメン!
静岡にはまずいないイケメン!』
・・・がっつり、言ってました。
言ってました。結構なボリュームで…
「綾那」
「えっ…!?」
「起こしてくれてサンキュ。
支度してくるわ」
「え、あ…うん」
…突っ込まれなかった。
でもなんか、本人にイケメンだとか言ってるのもし聞かれてたら
めちゃくちゃ恥ずかしいなぁ…
「綾那、ご飯よー」
「はーい」
ま、気にしても仕方ない、か。
っていうかイケメンについては触れてこなかったし、もしかしたらそこは聞いていなかったのかもしれないし!
そうだよ、きっと後半の話しか聞いてなかったんだよ!
悩んでても仕方ないじゃん!
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支度が終わり、8時すぎに家を出た。
8時半までに行けばいい学校だし、歩いて15分もかからないしね。
ま、でもエレベーターがすぐ来てくれなかったりしたら困るから、気持ち早めに。
早めに行ったら女の子が話しかけてくれるかもしれないし!!
今日こそは女の子と話したい!仲良くなりたい!!
お昼も、一緒に食べる人いないのは寂しすぎるしね…
8時20分頃学校に着くと、教室の中はもう結構にぎわっていた。
みんな結構朝早いんだなぁ…
「都築ちゃん、おはよ!」
・・・うわ、いきなり男子。
どうして男子が話しかけてくるんだっ…!
「…おはよ」
・・・この人は、いったいなんていう名前なんだろ。
確か昨日、一樹のことを”つっちー”と呼んでいたし、一樹と仲がいい人、だよね?
さすが、一樹の友達というだけあって、この人も髪の毛は派手…でも、やっぱり金髪ではないから?先生には昨日呼び出されてなかったよね。
でもけっこうオレンジっぽい色だけど…いいんだ?これはセーフなんだ?
線引きが難しいなぁ…
「あ、つっちー!
朝からちゃんと来るとか珍しい~」
「おう、まぁな」
一樹はそう言って、また私の隣の席に座った。
「あ、そうだ」
私も、顔を見て挨拶しようと一樹の方を見たら
「ん。」
なぜか、一樹の手には、どう見ても私のスマホが。
「え、え?」
「玄関に置きっぱなしだったって。
朝、おばさんとばったり会って」
「あ、ありがと」
あれ、私玄関にスマホ置いたまま出てきちゃったんだ…
全然覚えてないや…
まぁ、使うこともないんだけどなぁ…
お母さんのことだから
『友達と連絡先交換するときに必要!!』
みたいに思ったんだろうな、きっと。
…必要に、なるといいんだけどなぁ…
「ちょっと待て。
なんで都築ちゃんの母ちゃんが、つっちーのこと知ってんの」
「…前に挨拶されたから?」
「そもそもばったり会うか!?」
「あー、俺んちの隣だから」
「誰が」
「綾那が」
「・・・はぁ~!?」
「ちょ、声大きい…」
なんでそんな大きな声で反応するんだっ!
みんなが注目するじゃないか!!
「お前それずるすぎだろ!」
「…なにが」
「学校でも隣、家も隣なんて
つっちーばっか都築ちゃん独占しててずるい!
ってかいつの間に名前で呼ぶようになってんだよ!」
・・・だから、声大きいってば…
「…別に独占してねぇだろ」
「いーや、してる!!
俺も都築ちゃんと仲良くなりたい!」
・・・いや、あの
隣だからと言って仲がいいわけではないのではないのではないでしょうかね…
…あ、でも
隣に住んでなかったら、一樹と仲良くなることってなかったかも。
マンションのエントランスで会うことだってないわけで、エレベーターで一緒になることもないわけで。
窓越しに話したりすることもないし、お米研ぎに行くことだってないし。
こう思うと、やっぱり隣に住んでるって大きいことなんだなぁ…