「でも嫌なら断ればよかったじゃん?」

「仕方ねぇだろ。あいつ綾那の友だちだし」


えっ…?


「……もしかして、私のために一緒に帰ってくれたの?」

「…お前は仲良くなりたいんだろ?」


そ、そっかぁ…私のため、だったのか…
…でもなんか、悪いことしちゃったな…


「ごめん、ありがと」

「……おう」

「あ、じゃあ今日は私がアイスをおごってあげよう!」

「んじゃコンビニ寄ってくか」


やっぱこいつ、いいやつだなぁ。
本当は嫌なのにね。人のために自己犠牲にするやつなのか。

…好きだなぁ、私。一樹のこと。
やっぱ一樹と仲良くなれてよかったや。


「ところでさ
2人とも俺の存在忘れてない?」

「え、忘れてないよ。
慧もアイスなににするか考えときなよ」

「え!俺にも買ってくれんの!?」

「うん。
アイス食べてから勉強しよっ」

「やったね!!」





-----慧side


つっちーんちマンションの前のコンビニでアイスと飲み物を調達して、俺らはつっちーの家へと向かった。

ま、綾那ちゃんはシャワー浴びてくるっていうし、とりあえずつっちーと2人なんだけど。


「あのさ、つっちー」

「あ?」


先にアイスを食べながら、俺らは誰もいないリビングで涼んでいた。
男2人、アイス。さみし。


「俺綾那ちゃんのこと好きなわけよ」

「あっそ」

「本気にしてねぇだろ!」

「……つーかさ
お前と綾那そんな接点なくね?
まぁ綾那も慧のこと友達だと思ってるだろうけど、そんな会話なくね?」

「いやそうなんだけど!!
でも何話していいかわからなくなんだよ!」

「あっそ」


~~~~っ…!!
やっぱ本気にしてねぇ!!

…まぁ、そりゃ最初は可愛いって騒いでたけど。


ってか可愛すぎだろ!!
なんなん、あの汚れてない感じの美人は!!
東京にはなかなかいねぇ!!
汚れてないけど、男にも媚びないあの感じ!!

髪の毛もキレイだし!顔は小さいし!整ってるし!
スタイルもいいし!

たまにツーン、みたいな時があるのに、俺には笑う、みたいな!!
最初の頃はただただ戸惑ってただけなのに、俺には笑うようになったし!


…でも、なぁ


「…でも、綾那ちゃんは絶対つっちーのこと好きだよなぁ」

「はぁ?」


つっちーだけは圧倒的に仲がいい。
綾那ちゃんのなにもかもをこいつは独占してる。





「はぁ?じゃねーし!
どう見ても綾那ちゃんはつっちーだけ特別扱いしてんじゃねぇか!」

「……そうかぁ?」

「そうだよ!ってか気づけよ!」


…っていうか、それ言うならつっちーもそうだよなぁ…
つっちーが女子と話すことなんか、ここ最近ずっとなかった。
さっきだって、綾那ちゃんのために嫌いなあの子と一緒に帰っちゃうくらいだし、今日も綾那ちゃんと仲直りしてからのつっちーのご機嫌加減は半端ない。
ここまで機嫌いいこと、普段あるか?…初めてじゃねぇ?

…やっぱ、つっちーも綾那ちゃんのこと好きなんかな。
や、たぶん好きだよなぁ。

好きだけど隠してるか、好きと自覚してないか…
…つっちーの場合、どっちの可能性もあるよなぁ…

ってかつっちーの恋愛経験がまじでなさすぎて予想ができねぇ!!


「……つっちーはさ、綾那ちゃんのことどう思ってんの?」


俺がそう聞くと、つっちーは呆れた顔で俺を見たけど、小さくため息ついて少し考え始めた。


「……しいていうなら、母親的な?」

「・・・はぁ?」


なんだそれ。意味不明。
母親って、なんだそれ。





「やっほー
開いてたから勝手に入ってきたよー」

「……お前、またそんな格好してんのかよ」


そんな話をしていたら、さっきとは違って
長くてキレイな髪の毛をひとつに結び、ラフなTシャツと短い短いスウェット生地のショーパンを履いてキレイで細い脚をがっつり露出した綾那ちゃんが登場した。


「え、いいじゃん」

「慧だって男なんだからそういう格好は控えろよ」

「……なんか一樹、お父さんみたいなこと言ってんね」

「はぁ?」


お、親父!?た、確かに…
綾那ちゃんは母で、つっちーは父…って、絶妙にバランス取れてんじゃねぇか!!


「あ、アイス取るから―」


そういって綾那ちゃんが冷蔵庫に近づいている間に

「おい、つっちー!」

「…今度はなんだよ」


小声で、つっちーを呼んだ。


「いつもああいう格好してる綾那ちゃんとあってんのか、お前は!」

「や、別にいつもじゃねぇけど」

「でも見たことあるのかよ!」

「…あるけど、なんだよ」

「…なんだよ!ずりぃな!!」


なんなんだあの綾那ちゃん!!
可愛すぎるし、なんか無防備すぎじゃね!?

なんか、エロっ…「おい」


…なんて見てたら、つっちーに頭を殴られた。


「いってー…」

「お前何しに来てんだよ」

「…俺は男なんだ!そういう目で見ちゃうだろ!」

「……綾那」

「んー?」

「慧がお前のことエロい目で見てる」

「えっ!?」

「ちょ、なに言ってんだよ!!」

「本当のことだろ」


アイスを持ってこっちにきた綾那ちゃんは
俺になんか冷ややかな目を向けて

さっと、つっちーの隣に座った。


「な、綾那ちゃん違うってー!!」






……結局、綾那ちゃんはそのまま、つっちーの隣で勉強を始めて
仕方なく俺もこのままここで勉強を始めた。


はぁー…、結局綾那ちゃんに教えてんのつっちーだし。
俺が教えたかったし、教えられたかったのに。

…なんかなぁ。テスト勉しようって言ったのも俺で
綾那ちゃんも誘おうって言ったのも俺なのに

誘ったのも、話してるのもつっちーって。


俺、存在感ないな…

……よしっ、


「……つっちー!ここわかんねぇ!」

「……どこ」


”俺も綾那ちゃんと話したいからどっか行って”

そう書いたノートを、つっちーに見せた。
頼むよ、つっちー。俺にも時間を……”めんどい”


・・・おい。

一言で済ませんなよ!!
そして俺を無視すんな!!


「ねぇ、一樹こここれで合ってる?」

「あ?……あぁ、できてるよ」

「よかったー。これは理解したっ」


……なんでいっつもつっちーばっかり…

まぁ、やっぱりつっちーかっこいいもんな。
俺よりイケメンだし、頼りにもなるし。
……俺女癖悪いしなー…


「あ、もうこんな時間」


綾那ちゃんがそう言うから時計を見たら、時間はもう18時半だった。


「おばさんまだ帰って来ないの?」

「あぁ。でもあと30分くらいで帰ってくるとは思うけど」

「そっかぁ。ならそろそろ帰ろっか。
帰ってきてこんないたら邪魔だろうし。

ね?慧」

「え、あぁ!そうだなっ」


綾那ちゃんがバタバタと帰り支度を始めたから、俺もカバンにさっさと荷物をしまった。





「んじゃお邪魔しましたっ」

「おう」

「つっちーまた明日な!」


荷物を持って、俺と綾那ちゃんは一緒に玄関を出た。
・・・一緒に。
ってことは、俺と綾那ちゃん2人きりの時間がやっと!!
やっと来た!!


「んじゃ私こっちだから、また明日ね」


え、えぇ!?
あ、そうか!!綾那ちゃんちはエレベーターとは反対なのか!!

いきなり方向逆なのかよ!!


「あ、綾那ちゃん!」

「…ん?」


でも、せっかくの2人きりタイムをもう終わらせたくなくて、やっときたこのチャンスを逃すわけにはいかなくて


「あ、のさ
俺映画券もらったんだけど、明日一緒に観に行かない?」

「映画?」


いつか誘おう、いつか誘おうと買っておいたのに、いっつもつっちーがいたからな!
ま、買ったばっかだし始まったばっかの映画だから、期限はまだまだあるけど……遅くなるとその分誘いにくくなるし…受験生だから


「ん、いいよ。
明日なんの予定もないし」

「まじ!?やったね!」


やった!やった!!
こんなにすんなりOKもらえるとは思ってなかった!!


「じゃ、じゃあ明日帰りに!」

「うん、わかった。
それ観たかったやつだし楽しみ!ありがと。
じゃあまた明日ね」

「おう!また明日!」


やった、やったね!!
明日は綾那ちゃんと2人!!

明日は綾那ちゃんと2人!!





翌日、ルンルンで学校に行くと
綾那ちゃんはすでに教室にいた。


「綾那ちゃんおはよ!」

「あ、あぁおはよ、慧」


でも、今日の綾那ちゃんはなんだか少し元気がなかった。


「…なんか元気なくね?なんかあった?」

「え、ううん
とくにないんだけど、今日一樹休みなんだって」

「え、休み?風邪?」

「うん。朝電話したらけっこう熱高いみたいで」

「……へぇ、めずらし」


ってか、朝から電話?したの?
朝めっちゃ機嫌悪いつっちーと、電話?

俺が電話したらキレんのに…?


「一樹んち、朝から夜まで誰もいないし…大丈夫かな」


綾那ちゃんはそう言って、つっちーの机をジッと見ていた。
…もう、俺のことなんか完全に見えていなくて、俺は仕方なく席についた。


「あ、慧おっはー」

「ん、おっはー」


そこに、めぐとまいがまた一緒に登場した。


「あれ、今日は綾那んとこにいないんだ?
いつもは絶対綾那のそばから離れないのに」

「んー
なんか、つっちーが風邪で休むらしくて、綾那ちゃん元気ないからー」

「へー、一樹が熱とかめっずらしー」

「一樹がまじの欠席って初めてじゃない?」

「……ん、たぶんそう。
つっちーあんま風邪ひかないし」





「……あー、そっか
綾那が一樹のこと考えてるからこっちにいるわけね?」

「いない一樹に嫉妬かよー」

「……るせぇ!」


仕方ねぇじゃん!!
綾那ちゃんの近くにいても綾那ちゃんはそこにいないつっちーの心配で頭がいっぱいなんだから!
俺の方すら全然見ないんだから!


「ってか慧って綾那のこと本気なの?」

「え、んー…うん、たぶん」

「惚れんの早っ。
綾那来てまだ1週間とかじゃん」

「うるせ!こういうのは時間じゃねぇんだ!
ビビッと来ちゃったんだから!」

「まぁ慧のそれ、あんまり当てにならないけど」

「同感」

「…うるせぇよ!」


お前らそれでも俺の元カノか!!
…まぁ、すーぐ誰かを好きになっちゃう俺も悪いけど!
でも遊びは誰一人いないわ!!いつも常に本気だわ!!


「まぁ昼は一緒に食べればいいじゃん。
一樹いないから慧2人きりで食べれるじゃん」

「……でも一緒に食べててもたぶん綾那ちゃんはつっちーのことで頭がいっぱいなんだろうなー」

「まぁそうだろうね」


…少しは否定してくれ!!
俺にも希望をくれよ!!


「ってか意識してほしいならとりあえず行動起こせば?
普通にこのままじゃ一樹に持ってかれるんじゃない?」

「ね。とりあえず告ってみるとか」

「……お前ら、絶対適当なこと言ってるだろ」

「はー?せっかく言ってやってんのに」

「綾那みたいな鈍感なやつには押してかないとなんにも始まらないっしょ」


だからって、いきなり告るってどうよ。
まだ知り合って1週間ちょいなのに、もう告白って。

早いにもほどがねぇ?





***


結局、2人きりになるのがちょっと俺は怖くて、今日の昼はめぐとまいも巻き込んで4人で食べた。
いつも学食行っちゃうのに教室残ってくれた2人にはまじで感謝しかないわ。

でも昼休みには綾那ちゃんも朝と違って元気で、普通にいろんな話をする俺にたくさん笑ってくれたし、たくさん話しかけてくれて
いつもよりもすっげぇ話せた。つっちーがいないから。

…やっぱ、つっちーいないのでかいわ。
めっちゃ話せる。


そして、放課後

「綾那ちゃん、行こうぜ!」

「あ、うん」

待ちに待った、2人で映画。2人で映画!!
もう俺の周りには陽気なオーラがまとってるに違いない。


「え、なに
2人で映画行くの?」

「おう、まぁなっ」


めぐとまいにも別れを告げ、俺と綾那ちゃんは一緒に教室を出て、靴を履いて映画館のあるショッピングモールへ向かうため、とりあえず駅方面へと歩いて行った。


「ね、慧」

「んー?」

「映画さ、やっぱり…明日にしてくれないかな」

「……え、なんで?」

「…ちょっと、一樹が心配で」


…は?また、つっちー…?


「さっき、電話したらまだ辛そうな声してたし、なにも食べてないみたいだし…」

「…でも、綾那ちゃんに移っちゃうかもしれないし、つっちーのとこ行くのはやめたほうがいいと思うよ、俺は」

「わかってる。…でも気になるの。
もしかしたら、風邪の原因は私かもしれないし…」