足音をたてないように階段を下りて、渡り廊下を渡り、目的地までたどり着いた。


「んー、暑い」


今日も絶好調にいい天気だ。
これなら乾いてくれそう。…でも日焼けしそうだな


なんか、せめてスマホでもあればよかったな。
ひまだーっ


・・・うん、寝よ。
汚いかなー…ま、いっか。


私はそのまま、お構いなしに階段の一番上で横になった。











「ん……」


…あ、チャイムの音…


んん~~!!今何時だ…?

プールサイドの時計を見ると、時間は15時45分をさしていた。
6時間目が終わったところ、か。


髪の毛ー…ばっさばさ。でも乾いてる。
…でもばっさばさ。これひどいわー…

Yシャツも乾いてるけど…汗やば。
背中これ透けてない?汗かいたらまじで意味ないじゃん。

ってかこんな暑いところで1時間以上も水分補給もせずに寝てたなんて、よく生きてられたな、私。死んでなくてよかった。


45分、か。
55分からHRだから、戻るのは4時かな。もう少しゆっくりしてよ。
この背中の汗もどうにかしないと。





少しぐうたらしてたらあっという間に4時になっていて
私はようやく立ち上がった。


校舎に入るとエアコンが効いていて、本当ここは天国…
外は暑すぎだよ、全く


「あ、綾那ちゃんやっときたー」

「どこ行ってたんだよ」


教室に到着すると、すぐに慧と一樹が私に話しかけてきた。


「イケメンとデート」

「え!?」

「嘘に決まってんだろ」


適当なこと言う私に、慧ががっつり反応してくれて、なんか単純だなぁとほのぼのしちゃう。
この人、女に慣れてるくせにこういう嘘には騙されるタイプなのかな。


「綾那でもサボったりするんだな」

「意外でしょ」

「まぁ」


私はとりあえず水筒を取り出し、すぐにお茶をがぶがぶ飲んだ。
とにかく暑かった。汗かきすぎた。なんか干からびた気分。


「さて、綾那も来たことだし俺らも帰るか」

「だなっ」


…そういえば、まいもめぐももういないや。
2人はさっさと帰ったのか。…まぁバイトあるもんな。





「ねぇ、今日一樹んちでやるんでしょ?」


私はカバンも持ちながら、そう一樹に聞いた。


「そうだけど?」

「私汗めっちゃかいたから、1回シャワーしてから行くね」

「ふーん、そ」


そんな会話しながら教室を出ようとしたら

「あ、待ってたよー!」

「…え?」


なぜか、そこにはちさちゃんがいた。


「ね、一緒に帰ろ!」


・・・待って、なぜ?
え、だって昼休みに断ったよね…?


「い、一緒に帰る…?約束してたっけ…?」

「ううん、してないよ。
でも一緒に帰るくらいいいでしょ?勉強会は行かないから、途中まで一緒だし!」


途中まで一緒だし、って
ちさちゃん、本当に一樹んち知ってるんだね…


「や、でも…」


一樹の方をチラッと見ると、一樹は完全に嫌そうな顔をしていたけど
私と目が合ったら小さくため息をついて

「……今回限りだぞ」

そういって、先に教室を出て行った。





「ありがと!
私、1回あやちゃんとゆっくり話したかったの!」

「あ、うん
それは私も」


先に出て行った一樹に慧がついていき
私とちさちゃんはその後ろを歩いて靴箱へと向かった。


「ね、昔よく言った空き地覚えてる?」

「あ、うん!木材置き場でしょ?」

「あそこ、5年くらい前に潰されて、今じゃスーパーになってるんだよー」

「え!?そうなの!?なんかショック―…」

「ね、私たちあそこでよく遊んだもんねー」


そんな会話をしながら。
こんな話するの、引っ越してきてから初めて…一樹のこととか、めぐとまいの話聞いててあやちゃんも変わっちゃったんだなって思ったけど…
やっぱり、私に接する感じは昔とあんまり変わんないや…


…と、思ったんだけど


「なんで私は慧と歩いてるの」


靴に履き替えて、いざ帰るってなったら
ささっとちさちゃんは一樹の隣をキープして、私は慧と後ろを歩く羽目になった。


「え、俺もたまには綾那ちゃんとゆっくり話したいんだけど」

「……でも、一樹がちょっと心配」


前を歩く2人を見ると、ちさちゃんが一方的に話しかけていて、一樹はすべて無視。オールシカト。

…ちさちゃんも、よくやるなぁ。


「…まぁ、今回だけだからって我慢してんじゃん?」

「そんなに嫌いかぁ…」






「でも俺もあの子の噂はいいの聞かないなぁ」

「慧でも手は出さないタイプ?」

「え、俺って誰にでも手を出すように思われてない?それ」

「だってめぐともまいとも付き合ってたんでしょ?」

「……まぁそれは事実だけど…
でも俺は良い!!って思った子しか付き合わないし、アタックもしないから!」

「へぇ?そうなんだ」


なんかもっと軽いイメージだったよ。
今更ながら、だけど慧のイメージ最悪だったな


「ちなみに今は綾那ちゃんをロックオンだから!!」

「・・・え?」


なに、言ってんのこの人。
やっぱ軽いわ。


「ちょ、なにその呆れた顔!」

「慧が軽すぎて」

「だーから軽くないってば!」


…そんなことより、ちさちゃんどこまで一緒に来るんだろう…
途中までって言ってたけど、駅まで…?
ちさちゃんが引っ越していなかったなら、前に住んでいたところと1駅しか離れていないから歩いて帰るのかな…?


「じゃ、私こっちだから!また明日ね!」


あ、やっぱり駅に行くんだ。
よかったー…このままマンションまで来られたらどうしようかと思った…


「あの、一樹…大丈夫?」

「……あぁ。ただあいつはやっぱむり」

「はは…」


そうだよなぁ…
あんなに毎日のように嫌いって言ってたくらいだし…






「でも嫌なら断ればよかったじゃん?」

「仕方ねぇだろ。あいつ綾那の友だちだし」


えっ…?


「……もしかして、私のために一緒に帰ってくれたの?」

「…お前は仲良くなりたいんだろ?」


そ、そっかぁ…私のため、だったのか…
…でもなんか、悪いことしちゃったな…


「ごめん、ありがと」

「……おう」

「あ、じゃあ今日は私がアイスをおごってあげよう!」

「んじゃコンビニ寄ってくか」


やっぱこいつ、いいやつだなぁ。
本当は嫌なのにね。人のために自己犠牲にするやつなのか。

…好きだなぁ、私。一樹のこと。
やっぱ一樹と仲良くなれてよかったや。


「ところでさ
2人とも俺の存在忘れてない?」

「え、忘れてないよ。
慧もアイスなににするか考えときなよ」

「え!俺にも買ってくれんの!?」

「うん。
アイス食べてから勉強しよっ」

「やったね!!」





-----慧side


つっちーんちマンションの前のコンビニでアイスと飲み物を調達して、俺らはつっちーの家へと向かった。

ま、綾那ちゃんはシャワー浴びてくるっていうし、とりあえずつっちーと2人なんだけど。


「あのさ、つっちー」

「あ?」


先にアイスを食べながら、俺らは誰もいないリビングで涼んでいた。
男2人、アイス。さみし。


「俺綾那ちゃんのこと好きなわけよ」

「あっそ」

「本気にしてねぇだろ!」

「……つーかさ
お前と綾那そんな接点なくね?
まぁ綾那も慧のこと友達だと思ってるだろうけど、そんな会話なくね?」

「いやそうなんだけど!!
でも何話していいかわからなくなんだよ!」

「あっそ」


~~~~っ…!!
やっぱ本気にしてねぇ!!

…まぁ、そりゃ最初は可愛いって騒いでたけど。


ってか可愛すぎだろ!!
なんなん、あの汚れてない感じの美人は!!
東京にはなかなかいねぇ!!
汚れてないけど、男にも媚びないあの感じ!!

髪の毛もキレイだし!顔は小さいし!整ってるし!
スタイルもいいし!

たまにツーン、みたいな時があるのに、俺には笑う、みたいな!!
最初の頃はただただ戸惑ってただけなのに、俺には笑うようになったし!


…でも、なぁ


「…でも、綾那ちゃんは絶対つっちーのこと好きだよなぁ」

「はぁ?」


つっちーだけは圧倒的に仲がいい。
綾那ちゃんのなにもかもをこいつは独占してる。





「はぁ?じゃねーし!
どう見ても綾那ちゃんはつっちーだけ特別扱いしてんじゃねぇか!」

「……そうかぁ?」

「そうだよ!ってか気づけよ!」


…っていうか、それ言うならつっちーもそうだよなぁ…
つっちーが女子と話すことなんか、ここ最近ずっとなかった。
さっきだって、綾那ちゃんのために嫌いなあの子と一緒に帰っちゃうくらいだし、今日も綾那ちゃんと仲直りしてからのつっちーのご機嫌加減は半端ない。
ここまで機嫌いいこと、普段あるか?…初めてじゃねぇ?

…やっぱ、つっちーも綾那ちゃんのこと好きなんかな。
や、たぶん好きだよなぁ。

好きだけど隠してるか、好きと自覚してないか…
…つっちーの場合、どっちの可能性もあるよなぁ…

ってかつっちーの恋愛経験がまじでなさすぎて予想ができねぇ!!


「……つっちーはさ、綾那ちゃんのことどう思ってんの?」


俺がそう聞くと、つっちーは呆れた顔で俺を見たけど、小さくため息ついて少し考え始めた。


「……しいていうなら、母親的な?」

「・・・はぁ?」


なんだそれ。意味不明。
母親って、なんだそれ。





「やっほー
開いてたから勝手に入ってきたよー」

「……お前、またそんな格好してんのかよ」


そんな話をしていたら、さっきとは違って
長くてキレイな髪の毛をひとつに結び、ラフなTシャツと短い短いスウェット生地のショーパンを履いてキレイで細い脚をがっつり露出した綾那ちゃんが登場した。


「え、いいじゃん」

「慧だって男なんだからそういう格好は控えろよ」

「……なんか一樹、お父さんみたいなこと言ってんね」

「はぁ?」


お、親父!?た、確かに…
綾那ちゃんは母で、つっちーは父…って、絶妙にバランス取れてんじゃねぇか!!


「あ、アイス取るから―」


そういって綾那ちゃんが冷蔵庫に近づいている間に

「おい、つっちー!」

「…今度はなんだよ」


小声で、つっちーを呼んだ。


「いつもああいう格好してる綾那ちゃんとあってんのか、お前は!」

「や、別にいつもじゃねぇけど」

「でも見たことあるのかよ!」

「…あるけど、なんだよ」

「…なんだよ!ずりぃな!!」


なんなんだあの綾那ちゃん!!
可愛すぎるし、なんか無防備すぎじゃね!?

なんか、エロっ…「おい」


…なんて見てたら、つっちーに頭を殴られた。


「いってー…」

「お前何しに来てんだよ」

「…俺は男なんだ!そういう目で見ちゃうだろ!」

「……綾那」

「んー?」

「慧がお前のことエロい目で見てる」

「えっ!?」

「ちょ、なに言ってんだよ!!」

「本当のことだろ」


アイスを持ってこっちにきた綾那ちゃんは
俺になんか冷ややかな目を向けて

さっと、つっちーの隣に座った。


「な、綾那ちゃん違うってー!!」