ジェラールが竜王になって以来、ここ何年も悩まされているのが隣国アリスタ国のことだった。

 アリスタ国は竜人とは異なる人間が治める国だ。
 ラルフの報告によると、魔法を一切使えない代わりに様々な技術で道具を作り出し、生活を豊かにしているという。

 そのアリスタ国では、作った道具のエネルギー源に魔力を使っている。しかし、アリスタ国民は魔力を持たない。

 それでどうしているかというと、魔法石という魔力を豊富に含んだ天然石を採掘して原料にしたり、魔力を持つ生き物の一部──例えばドラゴンの鱗であったり、フェンリルの毛皮だったりから抽出したものを使っているようだ。

 魔力を持つ魔獣や天然魔法石の鉱山はラングール国とアリスタ国の間に広がる『魔獣の森』に多くが集中している。そのため、一部のアリスタ国民は国境を越えてその一帯にまでそれらを採りに現れる。
 そして、それこそがこの問題を根深くしている原因だった。

 数年前、竜化した竜人の子供が普通のドラゴンと誤認されて撃たれるという事件が発生した。
 ラングール国側はアリスタ国側に遺憾の意を伝えると共に最大限の警戒態勢を敷いていたのだが、それでも全ての国境地域を網羅できるわけではない。ジェラールの努力も空しく、またしても事件は起きた。
 ドラゴンは特に魔力を多く持つため、魔力の供給源としては絶好の対象なのだろう。