「ヤケ酒って菫さん、赤ちゃんが──!」
「もういないの!」


私の言葉を遮って、耐え切れなくなったかのような声が響いた。

瞬時に察して押し黙る私に、菫さんはじわじわと涙を溜め、「もう、いないのよ……」ともう一度力無く呟いた。


「十一週で検診に行ったら、心拍も、成長も止まってて……その前までは、確かに心臓は動いていたのに……」


震える声で語られる事実は、私にとっても胸を抉られるくらい悲しいもので、言葉にならない。

まさか、そんなにつらい事態になっていたなんて。私を貶める行為をしたのも、しばらく連絡が取れなかったのも、すべて納得できる気がした。


「あの子だけが、私の希望だったの。それを失ってしまったら、もう生きている理由もない」


手すりに掴まっていなければ崩れ落ちてしまいそうな彼女は、やはりここから飛び立とうとしているのだ。

そう確信し、絶句していた私はなんとか声を絞り出す。


「そんな……でも、彼……増田部長は? 彼だって菫さんがいなきゃ──」
「あの人にとって、私はただの都合のいい女でしかないわ」


菫さんは生気の抜けたうつろな瞳で、再び私の言葉を遮った。