そこで目に入ってきたのは、こちらに背を向けて長い髪をなびかせ、手すりに手をかけて立つ彼女の姿。

やっぱりここにいた……!


「菫さん!」


今にも舞い落ちてしまいそうに思える彼女の名を叫ぶと、ビクッと肩を震わせてこちらを振り向き、瞠目した。


「どうして……!?」
「こっちに来て話しましょう」


最悪な想像がだんだん現実味を帯びてきた恐怖で、ぎこちない笑みになりつつも、なんとか話し合いに持ち込もうと近づいていく。

しかし菫さんは、これまで見たことのない厳しい表情でぴしゃりと言い放つ。


「来ないで。私は、あなたが不倫していると世間に流した女よ」


真実を告白され、彼女まであと二メートルほどの距離で足を止めた。疑惑が当たってしまい、ショックを受ける。


「やっぱり、菫さんだったんですね……。どうして、そんなことを?」


気になっていた理由を問いかけると、綺麗な瞳を伏し目がちにして、ふいと顔を背ける。


「……ずっとうらやましかった。社長様と周囲から祝福された結婚をしていて、もうすぐ子供も生まれる予定で、順風満帆に生きているあなたが。しかも、その相手が慧なんだもの」