最悪の事態を想像してしまい、背筋がゾクリとして、私は勢いよく立ち上がった。縁起でもないこの想像は当たらないでほしいが、とにかく今すぐ行かなければと衝動に駆られて。

急に立ってバッグから財布を取り出す私に、麻那は目を白黒させている。


「どうしたの?」
「ごめん、麻那……私、行ってくる」
「え、ちょっ、ひとちゃん!?」
「また埋め合わせするから。仕事がんばってね!」


本当に申し訳ないと思うも、テーブルに千円札を二枚置き、彼女の肩をポンポンと叩いて慌ただしく動き出す。

なにがなんだかわかっていないだろう麻那だが、店のドアへと向かう私に「身体、気をつけてよー!」と叫んでいた。


増田部長のマンションは、この間送ってもらったときに通りかかったし、一階に本屋が入っているのでわかりやすい。十階建てのレトロなマンションだ。

レストランからは徒歩十分ほどで着いたが、身重な今は少し駆け足になっただけで息が切れ、かなり疲れる。お腹がぎゅっとなる感覚も、少し強くなっている気がする。

それでも諦める選択肢はなく、エレベーターに乗り込んだ。

最上階に着くと、屋上に続いているらしき階段がある。身体を気遣いつつ上り、重い扉を押し開けた。