私は泣き笑いして濡れた頬を拭う。我ながら苦しい言い訳だし、これじゃ仲直りするどころか絶対に引かれる。

泣き顔をさらしてしまったものは仕方なく、「最近、涙もろいんですよね。マタニティブルーってやつかな」などとごまかす私に、慧さんが近づいてくる。

すぐそばに歩み寄ると、彼はこちらに手を伸ばした。背中に当ててそっと抱き寄せられ、久しぶりに大好きなぬくもりに包まれる。


「……ごめん。この間のことは俺が悪かった」


優しく謝られ、私はぶんぶんと首を横に振った。

やっぱり、慧さんも謝りたいと思ってくれていたのだろう。私も〝こっちこそごめんね〟と言えば、仲直りできる……はず、なのに。

きっとそれだけでは、心に巣食う不安や切なさは取り除けない。涙も止まらなくて、彼もどうしたらいいのかわからずにいるのが伝わってくる。


「一絵……君を泣かせたくない」


困っている声が降ってきて、抱きしめる腕の力を強められた。

私自身もわからない。今泣いているのは、愛する人の世界を理解できない悔しさのせいか、自分が信頼されていないのではという悲しさからか、はたまた彼に同情しているのか……。

ひとつ確かなのは、なにがあってもこの腕を絶対に離したくないという意思、それだけで。

私はすがるように、彼の背中にしっかりと手を回して抱きしめ返した。