赤ちゃんを迎えるために部屋の片づけをしながら、昨日と同様にこれまでのやり取りを振り返っていると、ふいに四年前のポートフォリオを思い出す。


「もしかして、初対面のときも……」


どちらの空の色が好きか聞かれて煙たそうにしていたのは、色の区別がつきにくかったから?

あのとき、慧さんにはどんな色に見えていたのだろうか。彼が選んだという、プリザーブドフラワーも……。

窓辺に置いた綺麗なバラに目線を移すと、やりきれなさと共に涙が込み上げてくる。

人並みの夫婦関係を築けてきて、それなりにお互いをわかり合えたつもりでいた。しかし、彼の心情も、彼の目に映る景色も、完璧に理解することはできない。

だから諦められてしまっているのかな。それとも、やっぱり私は秘密を告白できるほど信頼されていない?


『愛しているはずの奥さんなのに、酷いな』


増田部長のひとことが頭にこびりついて、悪いほうにばかり考えてしまう。愛されていると感じるのは、やっぱり自惚れなんじゃないかって。


「どんな慧さんも受け入れるって、言ったじゃない……」


虚しいひとり言と共に、瞳に溜まっていた涙が冷たくこぼれ落ちた。