翌日、慧さんが出張先から帰ってくるまでの間、私はひたすら家事に精を出していた。頭の中では、常に慧さんのことがぐるぐると巡っている。
昨日はあれから、マンションの前まで送ってくれた増田部長にお礼を言い、大きな荷物を抱えて力無く部屋に帰ると、そのままソファに身体を沈めた。
スマホを取り出し、色弱について調べる。慧さんがなぜ黙っているのかを考えるより、まずは正確な知識を得なければいけないと思った。
調べてみれば、思い当たることがいくつかある。
自販機でコーヒーを買ったとき、黒地に赤のLEDで〝売切〟と表示されているのに気づかず押していたり、料理してくれたとき、鮮度が落ちて茶色くなった野菜を使おうとしていたり。
八景島でのデートでランチの場所を探していたときも、バーベキューができるお店を見て、彼は『バーベキューや焼肉は苦手だ』と言ったので不思議に思った。
『苦手なんですか? お肉は好きですよね?』
『自分で肉を焼くのが嫌なんだ』
『ああ、なるほど』
そんな会話をして、そのときはただ面倒だからかと納得していたのだが、本当は肉の焼け具合がよくわからないからなんだろう。