「ただのイタズラだったんですかね」
「どうだろう……。まあ、ふたりは恵まれた結婚だから、うらやむ人がいるのかもしれないな」
部長は前を見据えたまま、心なしか暗い声色でそう口にした。
恵まれた結婚……政略結婚はメリットを重視したものだし、そう思われるのか。こちらからしてみれば、愛し合った末に結婚するほうがうらやましい気がするけれど。
膝の上で抱えた、枯れることのない美しい花を見つめて思いを巡らせていると、部長も眼鏡を通してそれを一瞥する。
「その花、社長から?」
「はい。わざわざ本人が選んでくれたみたいで」
慧さんの気持ちが嬉しかったから、つい自慢してしまった。照れ隠しでバラを見つめ続ける私に、部長は「へぇ」と意外そうに相づちを打つ。
「松岡さんをイメージして選んだのかな。社長にはどんな色に見えているんだろうね」
その発言の意味がよく理解できず、私は顔を上げて運転席に目を向ける。
「どういう意味ですか?」
「あれっ……まさか知らない?」
彼は〝まずいな〟とでも言いたげに片手を口元に当てるので、急激に胸がざわめき始める。
「どうだろう……。まあ、ふたりは恵まれた結婚だから、うらやむ人がいるのかもしれないな」
部長は前を見据えたまま、心なしか暗い声色でそう口にした。
恵まれた結婚……政略結婚はメリットを重視したものだし、そう思われるのか。こちらからしてみれば、愛し合った末に結婚するほうがうらやましい気がするけれど。
膝の上で抱えた、枯れることのない美しい花を見つめて思いを巡らせていると、部長も眼鏡を通してそれを一瞥する。
「その花、社長から?」
「はい。わざわざ本人が選んでくれたみたいで」
慧さんの気持ちが嬉しかったから、つい自慢してしまった。照れ隠しでバラを見つめ続ける私に、部長は「へぇ」と意外そうに相づちを打つ。
「松岡さんをイメージして選んだのかな。社長にはどんな色に見えているんだろうね」
その発言の意味がよく理解できず、私は顔を上げて運転席に目を向ける。
「どういう意味ですか?」
「あれっ……まさか知らない?」
彼は〝まずいな〟とでも言いたげに片手を口元に当てるので、急激に胸がざわめき始める。