身なりのいい男と私のどこからか風がはいってくる冷え切ったぼろ屋は不釣り合いで申し訳なかった。
「すみません。ぼろ屋で、寒くないですか?」
と聞いてみる。台所から小気味のいい音ととても美味しそうな香りがする。そんな台所から
「いえ、鍛えているので、シルビアさんは寒くないのですか?」
「いえ、慣れているので!」
と即答する。そうはいうがこの家では毛布を羽織っていないと寒い。鍛えたら寒くなくなるのだろうか、私も鍛えようと部屋にある中で一番重いと思われる箱をもって上下に動かしてみる。毛布は落ちるが気にならなくなってきた。

「出来ましたよ。疲れているのでしょう?休まれるために、わたしがコロッケを作りましたのに…」
と悲しそうな顔をして目の前にきた。
「すみません…スウさんみたいに鍛えようと思いまして…」
と箱を置いて、机に置かれたコロッケを見ながら椅子に座った。
「こんなに材料ありましたか?見たことないものもはいってます!」
手を合わせて、口に入れるととても美味しい。顔がほころぶ。
「勝手ながら私がもっていた材料も入れさせていただきました。でも美味しかったみたいでよかったです。」
とスウさんも顔を綻ばせている。
「私のように鍛えるとは?やはりお寒いのでしょう?毛布も膝にかけてますし…鍛えたところで男の筋肉量には敵わないでしょうから、家を変えたらいかがですか?」
と内心この流れでシトレイ男爵家の養子になる流れにできないか頭をフル回転させようとするが、どうしてもシルビアに仕える自分を早くも妄想してしまいまとまらない。
「いえ、この家は父との思い出がつまってますから!窓から見える銀世界が大好きなんです…!なので多少寒くても離れることはできそうにないです…」
つい工場にいた時のように父の姿を思い浮かべてしまう。シルビアが食べる音が響くような気がするくらい静かな時間が流れた。

その間スウはずっと考えていた。そう答えられてしまっては、誘い文句が思い浮かびそうになかった。
その時、すごい音がしてドアの周りの壁ごと雪の重みで倒れてきた。瞬時にスウは壁とシルビアの間にはいり、抑えた。危なかった。咄嗟に反応できて胸を撫で下ろした。しかし、これは好機だ壁にお礼を言いたくなる、さすがにドアがなくてはこの寒い中この家で過ごすことはできないし、それ以前に防犯的に住むことはできないだろう。シルビアの方を見ると絶句していた。しかしすぐこちらを向いて「大丈夫ですか?!すみません、こんなボロ家にいたばかりに…すぐどかしますね」
と駆け寄ってくる。
「いえ、なんてことはありません。逆にいてよかったです。シルビアさんを守ることができましたし。」
と嬉しそうに壁を外に倒しながら答えた。続けて、
「でも、シルビアさん…お父様との思い出の家とのことですが…こうなっては住み続けられませんよね…よかったらよい家を知っているのですが、紹介させていただけませんか?」
と内心ほくそ笑みながらでも表情は残念そうに提案する。シルビアは考えた。この家はもう住めないだろう…これまで修理して修理して住んできたがさすがにもう限界みたいだ…私がもの心ついたときにはもうぼろ家だったから、きっと母が存命で父と住み始めたときからもうとっくに限界だったんだと思われる。これまで怪我なく住み続けられただけでもこの家に感謝しなくては…
「…私の収入で払い続けられる家であれば、ぜひ紹介していただきたいのですが…」
スウの身なりを見て不安そうに続ける、
「スウさんはそういった家をご存知なのですか?」
しめたと内心思ったスゥは即答する。
「ええ!収入面は問題ありません。ただ…仕事を変えてもらうことになるのですがよろしいでしょうか?」
それを聞いてシルビアは少し顔を曇らせた。今の仕事はとても気に入っているし、今までこの仕事しかしたことがない。おじさんだっている。しかし、家がなくては働く以前の話だ。スウさんを信じるしかない。
目を伏せながら、
「はい…急に辞めれるかは分かりませんが明日、工場長に相談してみます…」
と答えた。
「不安にさせてしまい申し訳ありません…しかしその分完璧にサポートさせていただきますし、家も自信をもって紹介できるものです!明日、わたしも同行させていただいても構いませんか…?」少女の様子に罪悪感を感じつつも、不安を解消させるように努めてはきはきと自信を持って答える。
「そうおっしゃっていただけて安心しました…!工場にですか?いいですよ??」
と不思議に思いながら答えた。その回答にスムーズに事が進んだことに満足しながら笑みがこみ上げるのを抑えながら表情を隠すように頭をさげて「ありがとうございます。」
と答えた。これからが楽しみだ。