彼が引っ越しまってからも、まだ駿が遠くに行ってしまったんだという実感は無かった。
いつものように、私の名前を呼んでくれる駿の声が耳に張り付いていた。
今すぐにでも帰ってきて欲しい。
あの時は、本気でそう思っていた。
でも、時間が経つにつれて、彼への想いは憎しみのような、醜い気持ちに変わっていったんだ。
それなのに、なんなの。
……どうして、今頃になって。
ーーーーーーガシャンッ!!
激しくガラスの割れた大きな音がして、私は我に返った。
そして、言葉を失った。
考え事に気を取られるあまり、私は店の皿を割ってしまっていたのだ。
ま、まずい、どうしよう。
すると、奥から店長の駆けつける音が聞こえた。
「どうしたの?すごい音がし…」
「すっ、すみません!考え事をしていたら、つい、手が滑ってしまって!」