駿に頭をポンポンされ、たちまち笑顔になる私。
そんな、小さい頃の記憶がフラッシュバックする。
あの時の私は、本当に駿が好きだった。
同い年だというのに、駿はやけに大人びていて。
私にとっての駿は、お兄ちゃんのような、大切な存在だった。
だから、駿が引っ越すと知った日は、もうどうすればいいのか分からなかった。
頭の中が真っ白になって。
一瞬、呼吸の仕方さえ忘れた。
ショックとこれからの不安が一気に押し寄せてきて、私は怖くて仕方がなかった。
ただ、駿にここにいて欲しかった。
これからもずっと、私のことを守っていて欲しかった。
「やだよ、駿がどっかいっちゃうなんて…」
「…」
「引っ越すなんて、言わないで」
そう言って、駿の胸ぐらに抱きついた私のことを、あいつは引き剥がした。
「ごめんな、芽穂」
それだけを言い残して。