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教室に入ると、椿ちゃんの後ろ姿が目に入った。


「椿ちゃんおはよう!来るの早いね?熱下がってよかったよ〜」

「あっ真咲ちゃん!おはよう〜!昨日は迷惑かけちゃってほんとにごめん」

「迷惑じゃないよ!気にしないで!」


本当に全然迷惑じゃない。

あの時もし1人じゃなかったら、

窓の外の野球部に気を取られなかったかもしれない。

資料は落とさなかったかもしれない。


あの人にも、出会えなかったかもしれない。


…私、またあの先輩のこと考えてる。

どうしてなのか分からない。

よく知りもしない相手が、勝手に私を支配しているような感覚だ。


昨日の資料を手渡して、私は自分の席に着いた。
*

容赦なく襲ってくる睡魔に耐えながら、授業を聞くのがやっとだった。


ノートはもちろん書けていない。

一応書こうと努力はしたけれど、ふにゃふにゃで暗号のような字は解読できそうになかった。