「暗っ!」



「怖ーい」



羽山の感想どおり、学校の最寄り駅を二つ進んだ場所は恐ろしいほどに暗かった。


駅こそ明るいものの、この場を離れ2・3歩歩こうものならすぐ闇に丸呑みにされてしまう。


殆ど降りる人もおらず、無人駅だった。


俺は持ってきた懐中電灯を取り出すと二人にそれぞれ手渡して足元を照らした。


すでに晴彦はカメラを片手にしている。


赤外線搭載のこのカメラは暗闇でも映せる最新式のカメラ。晴彦はそのカメラを電気機器会社社長の父親からもらったのだそうだ。


駅の全体図をグルッと撮影しながら晴彦は実況中継を始める。



「はい、ここがS駅です。すでに羽山はビビってます」



「ビビってねぇよ!」



先ほどの電車の中での話を蒸し返されて、羽山は不愉快そうにブンブンと手を振り、それにあわせて懐中電灯の光が飛び交って、壁にぶつかり光を放ったり、広すぎる空のその先にぶつかることが出来ず、消える。


そんな二人のやり取りを眺めながら、俺は病院へと続く道をなんとなしに眺めていた。
人も車も殆ど通らない、のどかな場所。


のどか過ぎて、静か過ぎて、俺は一瞬ブルッと身体を震わせた。



「なぁ、早く行こうぜ。寒くなってきた」



「賛成ー!ビビリの羽山は放っておくとして、信二行こう!」



「あ、コラ!俺を置いていくヤツがあるかっ!しかもビビってねぇよ!」



ワイワイと騒ぎあいながら俺たちは頼りない懐中電灯の光を片手にその先にある暗い闇の世界へと脚を進めた。