羽山が降って湧いたように出てきた女の存在に少し心を躍らせて、尋ねた。


しかし野々村は首を振ってその誘いを断った。耳にぶら下がったピアスがチャラ、と音を立てて山彦をかえす。



「パス。でも、何か持って帰ってきてよ、ちゃんと行ってきたって印にさ」



「仕方ねぇなぁ」



野々村に惚れている羽山は野々村のそんな気まぐれな言葉を鵜呑みにして承諾する。


それで自分が廃墟へと足を踏み入れたことを証明し、自分には度胸があると見せたいのだろうが、そんな下心はバレバレだ。


俺と晴彦は肩をすくめてお互いを見やった。


やってらんない、といいたげに。


野々村が離れて行って、また三人になると先ほどよりも俄然やる気の出たらしい羽山は、あれこれと肝試しの準備について語りだした。



「じゃ、今日の9時に学校で待ち合わせて、それからT病院に向かおうぜ。晴彦はビデオ係、信二は懐中電灯を出来るだけ持ってきてくれ」



「りょーかい」



「懐中電灯なんてあったかな」



そういいながら俺たちはこれから始める肝試しに心を躍らせていた。


大した遊び場も無い俺たち田舎民にとって、こういった遊びは、滅多に味わえない興奮を味わえる。


好奇心で胸が痛いほど高鳴るし、大人に見つかってはいけない、というスリルもたまらない。


普段授業や部活などでそう滅多なスリルを味わえていなかった餓えた獣同然の俺たちはそんな約束を交わして、午後の授業をつまらなく過ごした。