「整理番号十九番のお客様いらっしゃいますでしょうか」
女性店員がバインダーとペンを片手に店内を見回している。
「旬じゃない?」
「うん。……はい」
旬が手を上げて店員にアピールする。
すぐに気付いた店員が旬らの近くにやってくる。
「十九番のお客様ですね。申し訳ありません。本日、大変込み合っておりますので、先に御用件だけ伺わせていただきます」
「はい。えっと、機種変更したいんですけど」
「機種変更ですね」
そう言いいながら店員はバインダーに挟んである髪に書き込んでいく。
それから、希望の機種や、契約の状態など、必要事項を尋ねていく。
「――かしこまりました。それでは整理番号が呼ばれるまで、少々お待ち下さい」
「はい。あ、次、二十番、彼女です」
旬が気を利かせて、店員に次の奈津美のことを言った。
「はい。では御用件を伺います」
店員が今度は奈津美の方に向く。
「あ……あの、今のを解約して、新規で買いたいんですけど」
奈津美がそれを言うと、旬が小さく『えっ』と言って目を丸くしている。
その様子に気付いてはいたが、気付かないフリをして、奈津美は店員に対して必要事項を答えていった。
「はい……それでは、もう暫くお待ち下さい」
店員はそう言って、二人のそばから離れていき、次の客を探しにいった。
「……ナツ、新規で携帯替えんの?」
予想通りの問いが旬の口から出た。
旬には何も言ってなかったので、この形でバレてしまうと、なんだか気まずい。
「うん……あのね、最近、イタズラ電話とかひどくて……ちょっと番号変えた方がいいかなって思って」
それがストーカーの仕業だということは伏せて、奈津美は言った。
本当のことを全て言っているわけではないが、全くの嘘でもない。