「おはよー!」

「おはよー!ねぇねぇ昨日のドラマ観た!?」


下駄箱でローファーを脱ぎ、上履きに履き替えていると登校して来た他の生徒達の楽しそうな声が聞こえる。


それを横目に私は自分の教室へと向かおうと渡り廊下を歩いていた。


ふと生徒達が登校してくる方を見るが、天野君の姿はない。


そりゃ、あれだけ言ったんだ。
もう関わることもないだろうな。

目を伏せ、教室に向かおうとしたその時だった。


「おはよ!」


いつのまにか目の前に天野君が立っていて大げさに肩を揺らしてしまった。

「なに?もしかして俺のこと探してた?」

いつものようにおちゃらけているのが気に食わずあからさまに不機嫌になる。


「私、昨日話したよね?一人でいいって」

「聞いた」

「じゃあ何でっ…!」

()()林茉莉花と仲良くなりたいんだけど」


えっ、とその言葉に声を詰まらせてしまった。


「お前は俺が嫌いかもしれないけど、俺は林茉莉花と友達になりたいんだ」


そんなこと、面と向かって言われたのは初めてだった。

いつも誰かの影に隠れているのが当たり前で、私自身を見てくれる人なんていなかった。


「俺のこと嫌い?」

天野君は私に一歩近づくと両手を膝につき、私と目線を合わせるように見上げてくる。


「…別に、嫌い…ではない…」


近すぎる距離に顔に熱が集中するのがわかる。


「俺じゃ友達になれない?だめ?」


まるでご主人様に叱られた子犬のような目で見てくる。ドキドキと心臓が早くなるのが分かる。

ずるい!!こんなの…

「だ、めじゃ…ないけど…」

って言うしかないじゃない!!


「はい!じゃあ決定ー!」

私の答えに天野君はさっきの子犬の様な目は嘘みたいに愉快そうに笑っていた。


っ!騙されたっ!!!

不覚にも天野君にドキドキしてしまった自分が恥ずかしくてわなわなと唇を震わせたがそんな私を御構い無しに彼は教室と違う方へ歩き出す。



「って、そっちは教室じゃ…っ」


「茉莉花!」


不意に名前を呼ばれた。


「茉莉花、来いよ!」

彼は白い歯を見せ、太陽を背に笑顔で私の名前をもう一度呼んだ。


「〜〜〜〜っ」


もう、どうにでもなれ!!

私は置いて行かれないように天野君の後ろを追いかけ、赤くなった顔を冷やすように風を浴びた。